切開の小さな心臓手術
MICSは体にやさしい治療法です

切開の小さな心臓手術MICSは体にやさしい治療法です

MICS(ミックス)は「Minimally Invasive Cardiac Surgery」の略で、低侵襲心臓手術のことです。心臓の病気に対する手術治療には大きく分けて2つの方法があります。一つが、皮膚を切り開いて心臓に到達し、外科医が直接心臓に操作を行う方法で、もう一つが、カテーテルという管を血管の中に入れ、カテーテルによって心臓への操作を行う方法です。
(カテーテルについては TAVIとは のページをご覧ください)

これまでの手術方法

私たち心臓外科医が長年行ってきた治療方法は、直接心臓に到達する方法です。まず胸の正中部を切開し、その下にある胸骨を電気のこぎりで切開して心臓に到達します。この方法は、皮膚を胸骨の大きさに合わせて切開する必要がありますが、心臓全体を観察しながら手術を行うことができる確立された方法でした。しかし、胸骨は切ってしまうと骨折と同様な状態になり、術後骨が治癒するまでには2か月くらいの時間がかかります。この間、患者さんは、重いものを持たない、体を強くひねらないなど、ある程度の活動の制限が必要でした。

MICSってどんな手術?

MICS=低侵襲心臓手術は、胸骨の切開を行わずに、あばら骨(肋骨)の間の筋肉を切開し、その部分から手術手技を行う手術方法です。海外を中心とする先進的な施設ではすでに10年以上前から行われていましたが、国内においても2010年頃から施行する施設が増えてきた手術です。

通常の胸骨切開手術に比べると大変小さな切開で手術を行うため、手術術者が心臓全体を見ることはできません。ですので、手術を執刀する術者だけでなく、補佐をする助手の医師、看護師、麻酔科の医師、人工心肺を操作する臨床工学技士など、数多くの参加スタッフが手術方法に熟練し、チームで治療を行う必要があります。当科では、習熟のためのシミュレーション手術からチーム体制で取り組み、現在では、参加スタッフ全員がこの手技に習熟しており、安全な手術の提供に努めています。

僧帽弁形成術後の患者さんの創部

僧帽弁形成術後の患者さんの創部

冠動脈バイパス術の創部

冠動脈バイパス術の創部

MICSのメリット

01

胸骨を切開しないので体にやさしく、早期に通常生活に復帰できます

02

出血が少ないので細菌が入って化膿するような合併症もほとんどありません

03

内視鏡の使用によりあばら骨を広げずに済むので、術後の痛みが少ない方法です

3D内視鏡でより低侵襲に

2012年に3D内視鏡を導入したことにより、ほとんどの手術操作は立体的画像(3D画像)をテレビモニターで見ながらできるようになりました。実際に肋骨の間を広げて目視する必要がなくなったので、男性で5cm程度、女性で7〜8cm程度の皮膚切開で手術ができるようになりました。

女性の場合は、乳房の下の線に沿った切開を行います。皮膚切開部位とあばら骨の間の切開部位がずれてしまうため、皮膚切開は男性より少し大きくなりますが、乳房の下の線と切開の線が一致しているので傷が目立たず、患者さんには美容的にも大変喜ばれています。

MICSは傷の小ささが注目されますが、当科で施行している3D内視鏡を使用したMICSの最大のメリットは、胸骨や肋骨のダメージがないため、術後早期に通常の身体活動に復帰できることです。

内視鏡を使用しないMICSでは、手術部位を見るために開胸器で肋骨の間を広げる必要があります。内視鏡を使用したMICSは肋間を広げない手術なので、傷の大きさは変わらなくても、体へのやさしさにおいて大きな差があります。3D内視鏡を使用したMICSは、働き盛りの方で、早期に仕事への復帰を希望される患者さんに特に適した手術方法であるといえます。

冠動脈バイパス術 左側の胸を切開してMICS
僧帽弁手術、三尖弁手術、心房中隔欠損症手術、心臓の粘液種(心臓内の腫瘍)の手術など 右側の胸の切開してMICS

入院後の流れ

手術2日前

入院。入院と手術の説明

手術当日

朝から絶食。手術室へ
手術終了後、麻酔のかかった状態で集中治療室(GICU)へ(*1)。麻酔からの覚醒は当日から翌日朝です

(*1)経大腿動脈アプローチの場合は麻酔から覚醒した状態で集中治療室に戻ります。

1日目

食事とリハビリテーションの開始(トイレまで移動可)。血液検査など

2日目

一般病棟へ

3日目以降

引き続きリハビリテーション。創部の状態確認、血液検査、レントゲン検査など

7日目前後

心臓カテーテル検査(*冠動脈バイパス術後の場合)、心臓超音波検査

7日〜10日前後

退院

*上記は一般的な入院後の流れです。患者さんの病態により大きく異なる場合があります

お問い合わせ先

まずは近所のかかりつけ医にご相談ください。当院では「地域医療連携室」および「患者サポートセンター」が受付窓口となっております。かかりつけ医からの「紹介状」をお持ちの上、ご連絡いただきますようよろしくお願いいたします。
なお、遠方にお住まいで平日以外のご相談をご希望の方を対象とした「特別外来」も実施しています。

特別外来実施日:毎月第2・第4土曜日