はじめまして、昨年の11月からフライトドクターを始めた舎人誠と申します。
まだ数えられる程度のフライトしか経験がないのでたいしたことは言えませんが、医者になって9年ちょっと経過し、その多くを救急病院で勤務しておりましたが、恥ずかしながらドクターヘリに乗ってみてはじめてその有用性を実感しました。
長野の山間部には、陸の孤島と呼ぶにふさわしい医療過疎の村がまだまだ多く残されており、そのような地域に出動する度に、以前勤務していた奄美大島のことを思い出します。
以前私は、鹿児島県の奄美大島にある瀬戸内町というところの病院に勤務しておりました。奄美大島は鹿児島と沖縄のあいだに位置する島で、南北に100km程度ある大きな島です。人口は奄美群島全体(喜界島から与論島まで)で10万人、そのうち奄美大島が6万人で、私のいた瀬戸内町が1万2千人。瀬戸内町には有人離島が加計呂麻島、与路島、請島の3島含まれます。
医療機関は病院が1施設と、CTや内視鏡検査もできる有床診療所が2施設と、救急にも理解のある有床の整形外科医院が1施設あり、その4施設で町の救急を担当していました。そのほかに精神科医院もあり、時々精神科心療内科的な救急をお願いすることもありました。
瀬戸内町から奄美大島の中心地名瀬市内にある県立総合病院までは、峠をいくつも越えて救急車で走っても約1時間かかるため、消防との取り決めで瀬戸内町内の救急事案は必ず町内の医療施設にまず搬送することにしておりました。私の勤めていた病院には救急事案の約6割、大体1日1件の救急搬入がありました。
病院はまだ開院して間がないこともあり、60床と規模は小さいながらも手術室、CT、MRI、内視鏡などは内地(島の人は本土のことを内地と呼びます)の総合病院と比べても遜色のない充実ぶりでした。心臓大血管や脳外科領域の疾患は対応因難でしたが(緊急例は自衛隊のヘリコプターを要請して鹿児島や沖縄に搬送しました)、一般的な消化器内視鏡検査治療全般から、肝癌のラジオ波TAEから白内障手術や整形外科手術や透析も行なっていました。外科手術もヘルニアや虫垂炎や下肢静脈瘤などの簡単なものから、消化器から乳腺呼吸器の癌手術まで、常勤医は私を含めて4人だけでしたが、系列病院内外からの医師の応援もあり比較的幅広く対応していました。
医療機関が限られるため救急疾患も軽症から重症まで多岐にわたり、中には産科受診歴のないお産を取り上げたりということもありました。また、地域の特徴として奄美を含む南西諸島の多くの島にはハブが生息しており、1〜2カ月に1例程度ハブに咬まれた方が救急車で運ばれてきます。まず最初に抗毒素血清での治療が必要になりますが、馬の血清でできた薬を注射することも関係するのか、ほぼ全例アナフィラキシー様の反応が出るため、咬まれた傷の対応のほかにアナフィラキシーショックへの対応も大抵必要になりました。
奄美大島は、南西諸島のいくつかの島のように隆起サンコ礁でできた平坦な島ではなく、亜熱帯から熱帯の原生林に覆われた山が直接海に切れ落ちる急峻な地形のため、集落を結ぶ道路の多くは海岸線に沿って崖を削って作った曲がりくねった道路です。そのため、救急要請があっても救急隊が患者さんのもとに到着するまで30分から1時間かかることもざらにあります。奄美大島の西南の端にある西古見集落などへは救急車ではなく、消防の救急艇(高速艇)で片道約30分かけて患者さんのもとへ駆けつけ、さらに約30分かけて病院に救急搬送されてきます。同様に加計呂麻島ですと大島海峡を救急艇で渡るだけで10分、与路島請島は救急艇で片道約1時間かけて救急搬送されてきます。
そんな奄美大島に、2013年度にドクターヘリを導入することが決まりました。ドクターヘリが島の救急医療に貢献し、島の人々に福音となることを確信しています。
※信州ドクターヘリ通信は今回をもちまして、しばらくお休みさせていただきます。 |