近年の健康志向に伴い、「健康食品」や「サプリメント(一般的には、食品として売られている錠剤タイプの栄養補助食品を示す)」は、私たちの生活の中で欠かせない存在になりつつあります。実際、2001年国立健康・栄養研究所が行なった13500人を対象とした調査によると、男性の38.5%、女性の42.3%が利用しているそうです。その一方で、新聞・ニュースでは健康食品による健康被害・金銭被害が大きく報じられています。そんな健康食品を今回は安全性の面からみていきたと思います。
そもそも健康食品とはどのような食品をいうのでしょうか?法律的、学問的に明確な定義はありませんが、“健康を維持する”、“不健康になりそうな状態を改善する(病気の予防)”と称して売られている食品を指しているようです。私たちが食事をする理由には「栄養を摂る」ことと「食欲を満たす」ことがあります。しかし、食欲を満たす食事だけでは栄養が偏り、必要な栄養素をすべて摂るのはなかなか難しいことです。また、現代人は仕事によるストレスや睡眠不足、運動不足などで健康を害しがちです。健康づくりの基本は栄養バランスのとれた食事や規則正しい食事、生活習慣ですので、まずそれを改善することが第一ですが、それだけでは補いきれないときに、健康食品の登場です!食事で不足する栄養素を健康食品で簡単、便利に摂ることにより、健康の維持、不健康になりそうな状態の改善が期待されます。
健康食品は本来、健康を補助するための食品であるはずなのですが、実際には健康食品による健康被害も報告されています。また、消費者の関心につけ込んだ誇大な広告や悪質な販売によるトラブルも発生しています。これらの報告は増加傾向にあるといえます(表1)。
表1.健康食品に関する相談件数の推移
区分/年 |
1998 |
1999 |
2000 |
2001 |
2002/1-10月 |
健康食品 |
7633 |
8668 |
10375 |
10857 |
13937(156.2) |
- |
内「危害」件数 |
366 |
448 |
447 |
545 |
725(217.1) |
ダイエット食品 |
1066 |
1249 |
1199 |
1529 |
1518(152.9) |
- |
内「危害」件数 |
127 |
95 |
85 |
130 |
302(413.7) |
( )内は前年同期比:%(国民生活センター調べ)
(1)健康食品の個人輸入
インターネットの普及に伴い、気軽に健康食品を個人輸入することが可能となりました。医薬品と食品の範囲は国によって異なるため、日本では医薬品として認められているものが食品のように書かれていたりすることもあります。個人輸入は、個人の責任で輸入しているものですので、万が一健康被害が発生しても日本国内で購入したものと同じような国内法の適用はありませんので、注意が必要です。
(2)誇大な広告
「がんが治った!」、「糖尿病が改善した!」、「食べるだけでやせる!」、「奇跡の〜」、「医学博士が絶賛」など過度の期待をもたせるような書籍、広告がみられます。そもそも健康食品は病気の治療のために使うものではないため、効能や効果を謳うことは法律に違反します。
(3)悪質な販売
マルチ商法、キャッチセールスなどにより、高額な支払いを要求された、大量に買わされた、商品が届かない、返品に応じてくれないなどのトラブルが発生しています。
健康食品による健康被害、健康食品と称した無承認無許可医薬品および医薬品との相互作用についての報告をいくつか挙げてみたいと思います。
◆ダイエット用健康食品や医薬品による健康被害
「中国製ダイエット用健康食品で健康被害が出る」と、報道されたのは2002年7月。中国製ダイエット用健康食品の摂取により肝臓の病気が起きたというものです。厚生労働省によると問題のあった「中国製やせ薬」の中には「N−ニトロソ−フェンフルラミン」という化学物質が入っていました。これは食欲抑制効果(ダイエット効果)のあるフェンフルラミンという物質の化学構造を少し変えたものです。フェンフルラミンは、心臓の病気を引き起こすことが明らかになったため、米国では1997年に販売中止になっています。これ以外にもやせ薬をうたったものには甲状腺粉末(甲状腺ホルモンが含まれる)が含まれているものがあり、甲状腺の働きに異常を起こしたり、エフェドラ(麻黄)アルカロイドが含まれているものでは高血圧や脳卒中などの副作用が報告されています。
◆ステロイドが含有された百歩蛇風濕丸(ヒャッポダ神経丸)
当院でも「腰や関節の痛みが取れる」ことを期待し、摂取されていた患者さんが何人かいらっしゃいましたが、これにはステロイドホルモン、消炎鎮痛剤が配合されており、れっきとした健康食品と称する無承認、無許可の医薬品です。この医薬品は保健所への報告の義務がありますので、情報を得た際は最寄りの病院・薬局へお知らせください。
<製品>
1) 日本での製品名:中国健康食品不老長寿乃源「秘宝百歩蛇全体粉」※
台湾での製品名:台湾名産健康食品「百歩蛇風濕丸」(ヒャッポダ神経丸)
※中国健康食品不老長寿乃源「秘宝百歩蛇全体粉」は、
台湾名産健康食品「百歩蛇風濕丸」(ヒャッポダ神経丸)を
日本で小分けした製品である。
2) 輸入先:台湾台北市亜州毒蛇研究所
3) 配合されている医薬品成分:
◎デキサメタゾン:
ステロイドホルモン。炎症や免疫・アレルギーを抑える。
非常に効き目がよい反面、血糖や血圧の上昇、顔のむくみ、
感染に対する抵抗力の低下などの副作用もある。
◎インドメタシン・イブプロフェン:
炎症を抑えたり、痛みをやわらげる。
副作用として、吐き気や食欲不振、胃の痛みなどがある。
4) 標榜されている効能効果:
消化作用、肩こり、貧血、血流増進作用、関節炎、冷え性、
血液浄化作用、疲労倦怠、神経痛、強精・強壮、体力増強
これ以外にも、健康食品からグリベンクラミド(効果:血糖を下げる,副作用:低血糖(薬が効きすぎると強い空腹感、力が抜けた感じ、冷や汗、手足のふるえなどが出てくる。重症になるとけいれんが起きたり、意識がなくなったりする)、肝臓の働きに異常を起こすなど)、クエン酸シルデナフィル(効果:勃起不全を改善する,副作用:頭痛、ほてり、視覚障害など、狭心症や心筋梗塞などの薬である硝酸薬(ニトログリセリン他)などと併用すると血圧が著しく下がり非常に危険)などの医薬品の成分が検出されています。
これらの成分を含む医薬品は、医師の診察を受け、指示通り服用している限りは決して怖いものではありませんが、健康食品にこのような成分が含まれていた場合、摂り続けていると健康になるどころか、逆に健康を害してしまうこともあります。
厚生労働省のホームページでは「中国製ダイエット用健康食品等関連情報」として健康食品に関する情報を公開していますので、是非アクセスしてみてください。
◎中国製ダイエット用健康食品等関連情報: http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/diet/index.html
◆セント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオトギリソウ)含有製品と医薬品の相互作用
健康食品は健康な方ばかりでなくさまざまな患者さんが利用されています。従って、医薬品との相互作用が起こる可能性があります。相互作用とは、飲み合わせによって作用が強く出たり、逆に効果がなくなったり、場合によっては副作用が出やすくなったりすることをいいます。これはその1つの例です。
セント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオトギリソウ)はオトギリソウ科の多年生植物で、主にヨーロッパから中央アジアにかけて分布しています。これを含む製品はアメリカやヨーロッパでうつを改善する薬として広く流通しています。気分を軽くし、精神を高揚させ、神経系を回復させます。特に更年期障害や月経前期症候群による不安・緊張・イライラ・感情的動揺に効果があるといわれています。
ところがセント・ジョーンズ・ワートに薬の作用を弱める働きがあることが旧厚生省から発表されました(表2)。
表2.セント・ジョーンズ・ワートにより薬の作用が弱められるおそれの高い医薬品
抗HIV薬 |
クリキシバン、インビラーゼ、ビラセプト、ノービア、プローゼ、ストックリン、
ビラミューン、レスクリプタ |
血液凝固
防止薬 |
ワーファリン |
強心薬 |
ジゴシン、ジギトキシン、ラニラピッド |
免疫抑制薬 |
サンディミュン、プログラフ |
気管支拡張薬 |
テオドール、テオロング、ネオフィリン、テオコリン |
経口避妊薬 |
エリオット、シンフェーズ、ノリニール、オーソ、トリキュラー、リビアン、
トライディオール、アンジュ、マーベロン |
抗てんかん薬 |
アレビアチン、テグレトール、フェノバール |
抗不整脈薬 |
リスモダン、キシロカイン、アンカロン、硫酸キニジン、プロノン |
これ以外の健康食品についても医薬品との相互作用が報告されていますので、健康食品を購入される前には医師または薬剤師に是非ご相談ください。
(1)保健機能食品制度を活用して目的にあった食品を選ぶ
昨今、テレビ、新聞や雑誌、インターネットのホームページ上にはさまざま健康情報があふれています。健康食品1つをとってみても、多くの健康食品から適切なものを選ぶことは容易なことではありません。そこで厚生労働省が、効果や安全性を考慮して基準、許可制度を設けました。この基準などを満たした食品が「保健機能食品」です。これには「特別用途食品(病者用食品、その他)」、「特定保健用食品」、「栄養機能食品」があります。ここでは一般の方を対象とした「特定保健用食品」、「栄養機能食品」について説明したいと思います。
「特定保健用食品」は食品に特定の保健用途の表示を厚生労働省の審査を経て、許可された食品で、図のようなマークが表示されています。現在表示されている保健用途は「おなかの調子を整える食品」、「コレステロールが高めの方の食品」、「血圧が高めの方の食品」など13項目あります。
「栄養機能食品」はビタミン(ビタミンA、D、E、B1、B2、B6、B12、C、ナイアシン、葉酸、パントテン酸、ビオチン)とミネラル(カルシウム、鉄)の補充を目的とする食品で、成分の機能と含有量を記載すれば製造・販売会社の自己責任で規格基準を表示してよい食品をいいます。
これらの表示を活用して、目的にあった食品を選ぶとよいでしょう。
(2)1日の摂取量や注意事項を守りましょう!
健康づくりはバランスのとれた食事が基本ですが、不足しがちな栄養素の補助として健康食品を利用する場合には、1日の摂取量や注意事項を守りましょう。過剰な摂取による健康被害も報告されています。
(3)誇大な広告には注意!もう一度冷静になって考えてみましょう!!
健康情報をどのように読み、利用するかは個人で考えていかなければなりません。
“インターネット上の医療情報の利用の手引き”はそのヒントになるのではないでしょうか?
◎医療情報利用手引き:http://www.jima.or.jp/userguide1.html
(4)悪質な販売にも注意!
一度に大量に買わせようとしていたり、あまりにも高額であったら注意。契約内容もよく読んでみましょう。
トラブルに巻き込まれたり、困ったことが起きたときには最寄りの消費生活センターに相談してみましょう。また、体の具合が悪くなってしまったときには、健康食品を摂るのをやめ、医療機関で診てもらいましょう。
【参考資料】
1)国民生活センター;消費生活相談にみる2002年の10大項目
2)小内亨,塚田弥生:代替医療の日本特有の問題点.治療,84:31−37,2002.
3)厚生労働省ホームページ;中国製ダイエット用健康食品等関連情報
4)Haller C. A., Benowitz N. L., Adverse cardiovascular and central nervous system events associated with dietary supplements containing ephedra alkaloids. N. Engl. J. Med., 343:1833−1838, 2000.
5)医薬品・医療用具等安全性情報160号;セント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオトギリソウ)含有食品と医薬品との相互作用について
6)井上修二,鳥飼陽子,宇都宮信子,金井幸子:健康食品(保健機能食品)の分類と使用上の注意.日病薬誌,39(6):5−10,2003.
7)健康食品Q&A 知っておきたいこと気をつけたいこと(東京都健康局食品医薬品安全部安全対策課発行)
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