設立経過

訪問診療の原点

訪問診療の原点

 当院の地域ケアの原点は、無医村出張診療にあります。病院開設2年目の昭和20年12月に出張診療が始められています。当時は、ボランティアとして、日曜・祭日に村の中へ診療に出かけて行ったとのことです。昭和57年頃より、その精神は精神科看護婦のボランティアによる訪問看護、神経難病患者在宅ケア等に引き継がれていきました。
高齢化が問題となる中で、昭和59年に長野県農業協同組合で「老人保健施設整備構想」が掲げられました。その動きに呼応し、昭和61年1月には長野県厚生連労働組合による「在宅寝たきり老人状況調査」が行われました。当時介護者は、大変な事として「入浴」「排泄」「更衣」「食事」を挙げ、その悩みとしては「外出できない」「自分の時間がとれない」「睡眠がとれない」と介護者の犠牲のなかで成り立つ「家庭内介護」の実態が明らかになりました。その年の第40回病院祭において「全国のモデルとして、佐久に老人保健施設を」がメイン・テーマとして取り上げられ、大変な反響を呼びました。
その実態に対応すべく、老人保健施設モデル事業(S62年7月)、在宅ケア実行委員会が組織され、南佐久南部地域には「南部4村合同事業(S63年より)」、南佐久北部地域には在宅ケア活動(S63年より)が開始されました。

「在宅ケア実行委員会」の立ち上げ

A:在宅ケア実行委員会の理念

 在宅ケア実行委員会はその理念を「いつでも、誰でも、どこでも、必要なときに必要な医療サ-ビスが受けられる」をとし、対象者を「介護を必要とする者とその介護者」、在宅ケアの2本柱を「生命に対する援助と生活に対する援助」としました。当時より、介護を必要とする障害者のみならず、その介護者をも対象者とし、「命に対する援助(=医療)」のみならず「生活に対する援助(=福祉)」を視野に入れていたことは画期的なことでした。そして、南佐久北部は本院からの往診を中心とした「在宅ケア活動」、南佐久南部は、通所リハビリや訪問看護・リハも組み込んだ「南部4ヶ村合同事業」を行っていくことが話し合われました。

B:本院の「在宅ケア活動」

南佐久北部地域では、本院からの往診は連綿と続いていました。その活動を中心に実行委員会という形で組織化して行ったのです。
活動は井益男先生と隅田俊子先生を中心に有志医師が集まり、約30名の在宅患者さんに月1回の訪問診療を行うところから出発しました。老人の入院が多かった北2病棟の看護婦が、24時間電話対応(24時間電話相談)を行い、患者の要請によって医師の往診(24時間緊急往診)を行うようになりました。また、患者の病状変化で入院が必要な場合直ちに入院(24時間緊急入院)させることとしました。また、当時は入浴に対するサービスが少なく、入浴車を購入し、要医療者で市町村自治体の入浴サ-ビス対象外の人たちへの入浴サ-ビスも行いました。これらの活動は、岩波映画制作所によって記録され、平成3年1月に映画「病院はきらいだ」として完成しました。
その後、H4年5月には訪問看護婦を専任化し、訪問看護を開始しました。また、行政、福祉との連携強化のために、佐久市高齢者障害者サ-ビス調整会議(H4年9月より)、臼田町地域ケア連絡会議(H4年9月より)に参加していきました。平成6年1月の実績を見ると、訪問診療の利用者は164名(男64、女100)に、訪問看護の利用者は約50名に増加しました。このように在宅ケア実行委員会の活動は着実に広がっていきました。

C:南部四ヶ町村合同事業

南部四ヶ町村合同事業

 南佐久の南部4村(川上村、南牧村、北相木村、南相木村)は医療的に恵まれず、当院の出張診療が行われていた地域でした。人口1100~4800人と自治体の規模が小さく、高齢化率も高くなっていました。当時は川上村、南牧村には当院の医師が常勤で派遣され、南相木村、北相木村には非常勤医師が派遣されていました。その診療所医師派遣の実績の上に、これらの4村と当院が資金を出し合い協力し合いながら、各村独自の高齢化対策を立てていこうとの趣旨で「南部4村在宅ケア事業」が始まったのです。
内容は、公民館などを利用した通所リハビリと通所の送迎、在宅訪問リハビリ、独居老人を中心とした在宅訪問看護、村の保健婦さんによる健康相談を利用しての住民啓蒙活動、入浴車による入浴サ-ビスと多岐にわたりました。この事業は山間へき地の老人がかかえる諸問題を、自治体と病院が一致団結し、医療・保健・福祉・行政・地域住民のもてる力を総動員して解決していくという先駆的な実験でした。
これらの事業は川上村(H2年)南牧村(H5年)北相木村(H6年)南相木村(H8年)のデイサ-ビスセンタ-開設へと発展していきました。
当院が関わる中で、①当時のデイサービスでは考えられなかった重度障害者にもサ-ビスを提供することができたこと、②関係者の連絡会、ケ-ス検討会を月1回開催することができたこと③機能訓練事業をデイサービスセンタ-に組み入れられたこと④訪問活動(当院スタッフ、ヘルパ-、自治体保健婦)を行うことが出来たことなどの成果をあげることも出来ました。

地域医療部・地域ケア科の設立

A:本院の「在宅ケア活動」の問題

本院の「在宅ケア活動」は、「病院はきらいだ」など社会的評価も得られ、平成6年には30名の登録患者が170名までに増加しました。また、24時間体制の確立で「命に対する援助」を充実でき、在宅死を80%まで高めることができました。訪問看護の実施でキュアのみならずケアの充実ができ、自治体の介護・福祉との連携も具体的に実施できてきました。しかし、従来の実行委員形態の活動では解決できない様々な問題もあがってきました。

平成6年当時の「在宅ケア活動」の問題点として、
1)利用者が170名と増加し、在宅ケアのスタッフにとっても患者把握が困難となった。
2)訪問看護の専任化で、病棟看護婦では病状の把握が難しく電話対応が難しくなった。
3)対象地域が広く、移動時間が無視できない非効率があった。
4)看護婦のマンパワ-不足のため、重症者に偏った訪問看護となっていた。
5)福祉計画が各自治体に移管され、1市2町1村にひとまとめの対応では困難になった。

また、佐久総合病院の全体としての地域ケア活動を考えた場合、
1)院内では、他にも様々な地域ケア活動が行われていたが、全体的な把握や連携が持たれておらず
    システムの統一性がない。また、サ-ビスの格差がみられた。
2)訪問看護を依頼するシステムが確立していないため、北2病棟の在宅ケア活動に参加していない
医師からは利用が難しく、他院の訪問看護ステーションに依頼している症例が15例もあった。
3)院内への在宅ケアの広がりが見られず、高齢者のケアの負担が北2病棟へ集中してしまった。
   逆に、北2病棟の在宅ケア活動は閉鎖的との見方が院内に広がってしまった。

佐久総合病院の外からみた地域ケア活動の問題としては、
1)院外から見た「地域ケア活動」の窓口がはっきりせず、自治体職員からは、病院のどこに相談すれ
ば良いかわからないとの指摘がなされた。
2)北2病棟の在宅ケア活動を利用していない患者様について、自治体などからの相談があった場合
に北2病棟の在宅ケア活動には院内調整の権限を与えられておらず対応できなかった。
3)医師会からは、在宅ケアにおける病診連携の呼びかけがあったが、病院内に窓口がなかった。
4)佐久病院以外の医療機関に受診中の住民へのサ-ビスが行えなかった。
等があげられました。

確かに、当時の在宅ケア活動はボランティア的で、専任スタッフは訪問看護婦4人しかおらず、医師はすべて兼務でした。在宅ケア実行委員会は時間経過の中で開催されなくなり、「在宅ケア活動」自体が病院の正式な組織となり得ないままに経過していました。

B:地域ケアと地域医療部の設立

地域ケアと地域医療部の設立

 これらの諸問題を解決し、諸活動を系統的合理的に再編し調整を円滑にしていくための組織的整備が必要でした。訪問看護ステーションのうすだ開設、うすだ在宅介護支援センターの受託も決まりその検討が急務でした。松島松翠院長の命を受け、当時副院長であった清水茂文先生を中心にこれらの問題は話し合われ、平成6年10月地域医療部が発足し、在宅医療活動は「地域ケア科」として地域医療部の科の一つとして正式に位置づけられました。
在宅医療とは、施設医療に対する概念です。患者が家にいて医師が往診すれば在宅医療は成り立ちます。しかし、24時間「いつでも、誰でも、どこでも、必要なときに必要な医療サ-ビスが受けられる」をモット-に出発した在宅ケア活動も、医療だけでは不十分だと考えていまいた。「命を守る援助」が在宅医療ならば、つぎに必要なのは「生活を守る援助」です。また、介護者の命や生活も守らなければなりません。そのためには他の医療機関、自治体、福祉施設、福祉団体、ボランティアなどとのネットワ-クが必要です。
そのネットワ-クに支えられて人々が障害を持ちながらも家を中心に生活していく、家で生活しながらある時にはデイサ-ビスセンタ-に行き、ある時は老健に入所し、又ある時には病院に入院する。このように地域に支えられながら生活する事を「地域ケア」と呼びたいと考え、「地域ケア科」との名称がつけられました。

C:地域ケア科の役割

 地域ケア科とは〇〇外科とか〇〇内科のように、在宅医療を専門に行う為の科ではなく、地域ケアの「ネットワ-クのかなめ」として地域と病院を結ぶための、医療と保健と福祉を結ぶための部門としました。その三つのポイントは、
1)院内の地域ケア活動の統括
・地域ケア科が院内の地域ケア活動の統括を行う。具体的には、往診、訪問看護、訪問薬剤
管理指導、 訪問栄養食事指導などを統括する。
・また、地域ケアの院内宣伝、教育、指導も行う。
・各地に置く訪問看護ステ-ション、在宅介護支援センタ-を統括する。
・院内諸機関からの依頼で院外組織との連携の調整も行う
2)院外の諸機関との連携とその窓口としての機能
・院外組織からの相談に応じ、院内諸部門との調整を行う。
3)地域ケア活動の地域への分割と地域特性に合わせた地域ケア活動の展開
・訪問看護ステ-ションを各地に配置し、他医療機関、自治体と連携し地域ケアの一端を担う。
・在宅介護支援センタ-の委託を各自治体から受け、各地に配置し、病院内だけではなく、
地域に根ざした MSW活動を行い、地域ケアの一端を担うとし、地域ケア科は船出しました。