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 私は、信州ドクターヘリの操縦士を担当しています。長野県のドクターヘリに従事したのは、昨年の9月からです。ちょうど紅葉が始まりかけたころでした。現在は冬を迎え、降雪、強風とヘリコプターの運航には厳しい季節となりましたが、間近に見る八ヶ岳は冬の厳しさを纏い、病院からの眺めは本当に素晴らしいと思います。また、私自身川釣りが趣味なので、目前の千曲川の様子はいつも気になっています。
 私がドクターヘリの仕事をするようになってがら、5〜6年経ちます。ちょうど北海道でドクターヘリの試験運航が始まり、転勤で札幌にいた私は、試験運航時代から参加しました。試験運航の初期の頃は、現在と違い、出動件数も少なく、月に10回以下ということも度々あったものです。今まで存在しなかったシステムが社会に根付くには、それなりの時間が必要なのだと実感しました。
 時間がかかると言えば、同様に、ドクターヘリ操縦士として仕事ができるようになるにも、実はかなりの年数が必要です。
 多くの民間のヘリコプター操縦士が、初めに経験する仕事は、農薬散布です。最近では環境問題が重視され、作業量は大分減りましたが、私が会社に入った頃は、1年のうち半分はこの作業のために出張していました。この仕事を何年かやると、ヘリの基本的な操作について、必要な事柄の多くを経験します。そうすると、今度はテレビ局の報道取材機の仕事をまかされたり、送電線のパトロールの仕事をまがされたりするようになります。この頃になってくると、他にも仕事のバリエーションが増えてきて、あるときは冬山の奥深くのダムやアルプスの山小屋に、作業員の方や物資を運び、あるときは夜景を楽しむお客様や、選挙活動中の政治家の方が利用するヘリを操縦するなど、いろいろと忙しくなってきます。
 これらの仕事は、それぞれで必要な技量、知識が異なります。航空会社は、ドクターヘリの操縦士にとって、こうした広範囲の仕事の経験が大切だと考えています。なぜなら、事前の情報が少ないまま現場に飛行して、ときとして予想されない状況下で、冷静に対応するために経験から生まれる余裕が必要となるからです。
 ただ、そうなると、病院スタッフの方が感じているとおり、操縦士は私を含めて、おじさん中心の配置になります。将来、全回にドクターヘリの基地が増えれば、これからはもう少し若い優秀な操縦士がこの仕事につかないと人員が足りなくなるかもしれません。
 話は変わりますが、飛行中我々が第一に考えていることは、飛行の安全です。その次に、私たちがこの事業で特に気をつけていることがあります。それは地域住民への配慮です。普段、ヘリコブタ−が皆さんの家のそばに着陸することはあまりないと思いますが、ドクターヘリは、学校、公園、運動場など、人々の生活圏に頻繁に着陸します。このとき、近隣の方々に迷惑をかけるようなことが度々起こった場合、着陸できる場所が減りこの事業の継続が難しくなり、結果、助かる筈だった患者さんが助からない事態が起こるかもしれません。
 そうならないために、住民の方に不安を与えないようなルートを飛ぶようにできる限り考えています。また、やむなく人の頭上近くを飛んだり、砂埃が舞ったりした場合は、「大丈夫でしたが?」などと声をかけることを心がけています。たまに患者さんの容態によっては、こうした余裕がない場合もありますが、そのときはどうが暖かい目で見守っていただければ大変助かります。
 最後になりますが、ドクターヘリという仕事は多くの方の理解協力があって初めて成り立つ事業だなと常々思います。消防機関、医療機関、行政、地域住民、そして我々のような航空会社、全てが協力し合い初めてこのシステムが成立します。ドクターヘリの地域への定着や飛行の安全のために、我々もできる限りのことをし今まで以上に信州ドクターヘリが地域に根付いたシステムになっていけばよいと思います。


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