基幹医療センターのコンセプトと再構築の進捗状況(3)

1 組織の再編と機動性の確保

これからの課題

 二つのセンターに分かれる中で、各センターの意志決定の機動性確保と両センターの意志決定の整合性との間のバランスをとる必要があります。4月に導入された統括事業所・統括院長制は、その改変の端緒となるものです。本院機能を如何に再構築するかが、「佐久病院らしさ」を失わずに佐久病院グループとして機能する要です。
本院機能の議論は始まったばかりであり、未完成です。佐久病院グループとして、「農民とともに」の精神を忘れることなく今後も医療や地域づくりを行なっていくには、さまざまなアイデアが必要と思われます。

2 電子カルテの導入と業務分担の見直し

 基幹医療センターの開院に先駆けて、平成23年度に現状の本院で電子カルテが導入されます。電子カルテ化によって、私たちの業務の姿は大きく変わります。
医事課のカルテ出しはなくなり、伝票もなくなります。そして、カルテを院内のどこででも見られるようになり、場所を問わずに医事業務ができるようになります。問題は、医師や看護師が適確に指示や処置を入力しなければ、電子カルテのメリットは生まれない点です。システム構築、職員教育をしっかり行う必要があります。そのためにも、より発生源の近くに医事課職員が足を運ぶ必要があるかもしれません。医事課での検討と準備に期待したいと思います。
また、電子カルテと物流システムが連動すれば物品の請求や患者さん一人ひとり、部門別、医師別のコスト計算も可能になってきます。そして、その情報は経営分析に大きな力を発揮するものと思われます。
また、看護の仕事も大きく変わります。バーコードによるチェックを行えば、誤投薬などの安全管理は飛躍的に進歩します。医療安全管理室や看護部での検討に期待したいと思います。
しかし、もっとも大切な点は、外来患者さんのアメニティー改善です。受付、誘導、検査、受診、会計などの姿は大きく変わりますし、変えることができます。従来の業務分担にとらわれることなく、いかに患者さんにとって快適かを考える必要があります。そのためには、“外来”というまとまりの中での 「フロア・マネージャー」が必要です。職種横断的に外来の問題に責任を持つ仕事です。基幹医療センターの開院を待たずに取り組める課題です。厚生連の患者満足度調査では、佐久病院の評価は高くありません。真撃に取り組む必要があります。
現在、電子カルテのデモが行われています。しかし、電子カルテは小海分院ですでに運用をしているのです。小海分院の電子カルテの問題点を洗い出せば、新規の電子カルテの特徴や問題点は手に取るようにわかるようになるはずです。各部門、特に医事課は、積極的な情報収集をしていただきたいと思います。
以上のように、電子カルテは単に紙がコンピューターに置き換わるだけではありません。業務の改善や業務分担の見直しを伴います。各部門が、初心に帰ってお互いの業務を分析し、業務改善に繋げなければなりません。そして、それが患者サービスの改善に繋がらなければなりません。

3 SPDのシステム改善と手術室の運用改善

 再構築ではSPDのシステム改善を行います。SPDとは、診療材料・医薬品など日常的に購入する物品の購買・供給・搬送等を一元管理し、病院内で流通する 「もの」とその「情報」等の総合的な管理を行うシステムのことです。
物品の標準化、物流の効率化や業務の平準化を図り、物品管理部門本来の購買管理・在庫管理・搬送管理・消費管理等を一元管理することによって、看護業務からこれらの一連の業務を軽減することができます。
佐久病院では、平成13年からSPDを導入しています。しかし、使用した物品を誰に使用したかまでは把握できておらず、レセプト情報との連携もできていません。バーコード認証などで、物品の使用履歴を電子カルテに取り込むことによって、SPDは「情報」の総合管理にまで至り完成します。どこまで配送を行うのかも重要です。部門まで配送するだけでなく、部門の棚へ並べるまでをSPDが行えば、各部門は本当の意味で物品管理から開放されます。
また、薬品に関しては現状ではSPD化は不十分です。薬局の部門システムとSPDのシステムの連携ができていないのです。
そして改善が急がれるのは、手術室のSPDです。手術用具の標準化・セット化をすすめ、運用を改善し、手術室の稼動を高める必要があります。また、そのことは看護業務の負担軽減に繋がります。今回、手術室のコンサルをお願いしました。現状の手術室での運用改善を始め、基幹医療センターの運用をより良いものにしていく必要があります。
運用改善の目処がある程度つくようならば、電子カルテの導入に合わせてSPD改善のシステム改善を前倒ししていくことも考えられます。SPDの改善のシステムは、将来の課題ではなく、現在の課題です。再構築推進本部会議を先取りする議論を期待したいと思います。

4 ICUと救命救急センター

 現在のICUと政急致命センターは、同一フロアで一体化した運営がなされています。しかし、本来この二つは別々のものです。基幹医療センターの設計では、この2部門は別々の場所にゾーニングされています。また、各々の増床も計画されています。
現状の施設からのスムーズな移行のための検討が必要です。現状の病院の中で、手術部とICUは大変な負荷がかかり、職員は疲弊しています。医局、看護部に任せることなく、管理部も積極的に関わることによって現状からの業務改善、基幹医療センターへの移行シミュレーションを行う必要があります。

5 情報管理

 総合医療情報課の立ち上げが議論されています。SPDの導入によるコストの把握、治療成績の情報など、現在の病院の情報には大きな穴があります。しかし、現状の業務を続ける中では、大きな間題になってきませんでした。それは、現状の課題分析と改革への意識が弱かったからだと考えます。また、縦割りの中で「自分の部署の問題」「自分の問題」と考えてこなくなっている組織の硬直化があるためと思われます。
しかし、再構築を実現するためには、“情報”の収集能力の改善と一元化は必須項目です。総力を挙げての取り組みが必要です。
再構築は、「パラダイムシフト」です。新しいパラダイムを職員、他の医療機関、地域住民に伝えていかなければなりません。現在、秘書広報課で、『農民とともに』や『季刊佐久病院』の発行、ホームページの管理を行なっています。外来患者さん向けの情報誌『お加減はいかがですか』 は、内容の検討を秘書広報課と地域医療連携室で行なっています。職員向けの情報ツール「サイボウズ」はシステム課の管理です。また、個人情報の漏洩防止の対策は、システム委員会が中心に対策を練っています。
これらは、従来の業務分担の発想から抜け出していません。情報という切り口で、病院全体の情報管理を行う部門を、管理部門の再編で作る必要があるのかもしれません。

6 医療秘書

 医療秘書(メディカル・アシスタント)の導入が、医師の仕事を変えてきています。現状では、オーダー入力の代行が中心ですが、将来は、あらゆる分野の業務を医師と分担する可能性があります。
医療的な知識と診療情報の管理、保険診療の知識などを併せ持った新しい専門職として確立していくために、医療秘書は診療情報管理科(診療協力部)の所属です。
また、医療秘書は日常的な医師の秘書業務に広がる可能性もあります。それは、医師の人事管理にも繋がっていく可能性もあります。
その方向で考えるならば、秘書広報課の業務との分担が必要となります。情報の問題と合わせて、秘書広報課の再編が必要と考えます。
医療秘書は、看護部との業務分担の検討も必要になると考えます。看護師不足の中、本来の看護業務に専念する環境作りは、管理部との連携の中で生まれると考えます。

7 看護部

 電子カルテ化に伴って、外来のカルテ運びや伝票整理から看護部は開放されます。また、SPDのシステム改善によって、物品管理から開放されます。本来の看護業務とは何かをしっかり検討し、その検討を基に他部門との業務分担の見直しを行う必要があります。医療秘書との役割分担も重要な課題です。
また、基幹医療センターにおいては、外来はフリーアドレス化されます。病棟も大きな意味では、フリーアドレス化されます。そのメリット、デメリットを前もってしっかり議論する必要があります。そして、看護の方針をしっかり掲げる必要があります。
師長会は、各部門の代表看護師が部門の課題を持ち寄り検討する性格があります。一方、それだけではなく看護部全体の方針を検討する性格も持っています。今以上に「部門の代表である師長」から、看護部門全体の運営をつかさどる師長会の「幹部看護師としての師長」として、看護の方針を検討していただきたいと思います。

8 地域医療連携の推進

 再構築を成功させるためには、地域医療連携を推し進め「地域完結型医療体制」を構築することが必要です。しかし、地域連携は単なる紹介率、逆紹介率の増加を意味するのではありません。また、それによる経営上のメリットを指すものでもありません。真に住民が受けやすい医療体制を他の病院と協働し作ることです。紹介率、逆紹介率は、あくまでも地域医療連携の結果であり、目標ではないのです。

①基幹医療センターに求められる 機能・メニュー
まずは、診療所に求められる機能と基幹医療センターに求められる機能を仔細に検討する必要があります。そして、診療所から招介したくなるような機能・メニューを基幹医療センター(地域医療センターにも)に準備する必要があります。診療所では行いにくい高度な医療機器を使った診断、治療の能力や専門医の能力を生かした専門外来、特殊外来、多彩なコメディカル・スタッフの能力を生かした指導・教育などのメニューを考え、取り揃えることなしに、紹介を増やすことは難しいと思います。この機能・メニューの開発も地域医療連携室の役割のひとつと考えます。

②紹介しやすい病院、逆紹介しやすい病院
もちろん、紹介受診しやすい環境を作る必要があります。ひとつは、地域医療連携室の機能強化により、先に述べた機能・メニューの広報を行うことです。そして、しっかりとした外来紹介枠を設け、迅速に診察まで結びつける必要があります。
逆紹介を増やすための環境整備も地域医療連携室の役割です。地域の開業医・医療機関の情報を収集し、院内に広報する必要があります。また、連携パスの運用や紹介先の情報を患者さんに提供するなどの努力も必要です。
そして院内の医師に対する情報提供も必要です。

③高機能診断センターの役割
基幹医療センターには、高機能診断センターが計画されています。開業医の先生方からの検査依頼と、検査実施後の説明を行うとともに、ドック、検診のオプション検査を受け付けるというのが大まかな概念です。開業医の先生が自院の検査室のように、気軽に検査を依頼できる環境を作る必要があります。また、検査機器の紹介枠も設けることで、検査までの待ち日数を短縮する必要があります。

④地域医療連携システム
以上のような紹介、逆紹介、検査予約をスムーズに行えるように、インターネットを利用した地域医療連携システムを導入する予定です。登録していただいた開業医の先生は、自分のクリニックに居ながら、紹介状を送ったり、診療枠を取ったり、検査予約を取ったりできるようになります。
基幹医療センターが、開業クリニックの検査室のように、逆から見れば、開業クリニックが基幹医療センターの診察室のようになることが理想です。

⑤ドック、検診の2次精密検査
検診、ドックで2次精密検査を指示された方は、どの医療機関を受診すればいいのか不安です。従来は、受診先を丁寧に説明することができていませんでした。高血圧で開業クリニックに通院中の方が、高脂血症をチェックされ、わざわざ佐久病院を受診されることも稀ではありませんでした。2次精密検査は、開業クリニックを受診した方が良い場合もありますし、基幹医療センターを受診する必要がある場合もあります。
医療機関の情報を提供し、2次精密検査を適切な医療機関で受けることができるご案内をする必要があります。

⑥地域医療連携の推進の前提
この紹介・逆紹介をスムーズに、しかも住民にとってもメリットのあるものにする前提は、医療機関を超えた診断・治療の標準化です。連携パスの運用や勉強会の開催などをとおして、顔の見える関係を築きつつ、お互いに勉強することが必要です。

9 教育・研修機能

 地域連携の前提である診断・治療の標準化のためには教育・研修が必要です。地域医療支援病院の要件には、「地域の医療機関の職員に対して、生涯教育の研修を行うこと」と明記されています。また、実際に政急、急性期医療、専門医療に特化した基幹医療センターの運営には、教育や研修は欠かせません。
基幹医療センターの医局には、研究に使用できる研修室を備えることを検討しています。また、別棟で“研修ホール”を設けることも検討されています。
その他、治験の問題や、がん登録、がんのサーベランスなど、基幹医療センターに相応しい機能の検討が必要です。
また、夏季大学、農村医学研究所、農村保健研修センターなどとの役割分担、看護専門学校や佐久大学との連携など、検討しなければいけません。

10 患者の憩える病院

 基幹医療センターは、患者さんや住民への情報提供の機能も高める必要があります。“よろず相談”に対応できる「患者サポートセンター」を作ることは決まっています。その他、医療情報コーナーや患者図書館が必要と考えます。住民向けの定期的な講演会も必要かと思います。患者図書館は、佐久市立図書館の 「医療図書分室」として運営していただくようお願いすることも考えられます。
外構の設計にも工夫が必要です基幹医療センターの柱に、脳卒中・循環器センターがあります。そして、循環器疾患の治療後のリハビリを積極的に推進する検討がされています。病院でのリハビリが終わった後に、気軽にウォーキングやジョギングが楽しめるコースや遊歩道を用意してはどうでしょう。地域の住民も日曜日には、運動するために集える病院になります。
また、子どもたちが遊べる児童公園やアスレチック施設を作ってはどうでしょう。アスレチックの遊具は、地域のお父さんたちが参加する“クキッズ・サポート・パパクラブ”が整備するなどのアイデアもあるかもしれません。
 

11 給食センター

 基幹医療センターの開院に合わせて、給食センターを作り、給食を“センター化”することが検討されています。従来よりも効率的に給食を提供できるだけでなく、治療食の配食サービスが可能となります。
高齢化の中で、栄養指導を行うだけでは住民のニーズに応えられなくなっています。食事を確保することさえ大変な高齢者・高齢世帯は増えています。ヘルパーさんが調理を手伝ったり、配食サービスを利用したりしている住民は数多くいます。しかし、病気を持った方の治療食を提供することはできていませんでした。安心して自宅で療養するために、治療食の配食は望まれています。
また、長野県厚生連としての連携の問題もあります。厚生連病院は、中山間地域や農村部の医療を担っています。現在の医療費抑制政策の中で、厳しい経営を余儀なくされている事業所もあります。何とか厚生連全体で経営を守り、医療を守っていく必要があります。たとえば、小諸厚生病院にも、給食センターを利用していただくことで、お互いの事業所の経営の安定に繋がるかもしれません。給食や物品購入を厚生連として中央化し、センター化することは、厚生連グループとしての将来展望に繋がります。

12 エコ病院・災害拠点病院

 地熱利用、太陽光発電を取り入れることが、検討されています。まずは、地熱利用が有効かどうかを、県の事業を利用して調べる予定です。人間に優しい病院は、環境にも優しくなければならないと考えます。
また、災害拠点病院として、免震、耐震構造などとするとともに、災害用備蓄倉庫や、外来ホールへの酸素配管などを計画しています。
病院のエコ施設を見学したり、災害拠点病院の施設を見学したりすることが、地域小学校の課外学習で行われるようになったら良いと願っています。

以上のように、再構築を推し進める中で佐久病院の職員の役割も新たなものに変化します。それに伴い、職員一人ひとりが佐久病院の役割を認識し、「心の再構築」を行う必要があります。もちろん、「病院完結型医療体制」 から「地域完結型医療体制」へ転換した中では、役割りは大きく変化します。しかし、今まで述べてきた「これからの課題」の中には、再構築を行わなくてもやらなければならなかった項目も多く含まれています。
佐久病院は、「農民とともに」歩んできました。しかし、再構築の議論が206号で述べたように、8年、16年と進展しなかった原因は、私たちが「ともに」の姿勢を忘れかけていたからではないかと思います。一番大切なのは「地域のニーズ」です。再構築は、地域のニーズの変化に対応するためのパラダイムシフトです。その議論ができなかったのは、地域のニーズから私たちの心が離れていたからではないかと考えるからです。「地域のニーズ」に立ち戻る、「農民とともに」考える、それが私たち職員の「心の再構築」 の出発点だと考えます。
そして、本当に大切なことはさらにその先にあります。住民自らが地域の医療機関のあり方を考え、どのような医療機関であって欲しいと発言し参加することです。佐久病院の目指し続けてきた「医療の民主化」です。「農民とともに」「住民とともに」活発な討論を行い、再構築を実現していきましょう。