新たな地域医療を目指して

第63回病院祭をふり返って

 5月17日(日)の小満祭に合わせ5月16日(土)~17日(日)に第63回病院祭が開催されました。あいにく2日間とも雨天だったのにもかかわらず、本院と看護専門学校を合わせて1万6千843人の観覧者が訪れました。今年の病院祭を、メインテーマを中心に私見を交えつつふり返ってみました。

今年の病院祭のメインテーマの一つは、「新たな地域医療を目指して」でした。これまで佐久病院は、第一線の医療から専門医療まで包括的に佐久地域の医療を担っておりましたが、医療の専門化、高度化、診療圏の拡大などで、従来どおりの医療を提供することが困難になってきました。そこで、佐久病院は高度専門医療をつかさどる基幹医療センター(北中込ツガミ跡地)と市民病院的な地域医療センター(臼田)とに分け、新医療供給体制を構築するという提案をしてまいりました。今年の病院祭はこれを具体的に多くの観覧者の皆様に説明できる、またとない機会だったと思います。多くのパネルに囲まれた病院連携を立体地図にしたものは力作で、基幹医療センターのイメージ模型も強く印象に残りました。

 メインテーマのもう一つは、「みんなでつくろう健康な地域社会」でした。地域の人々が協力して実践してきた検診、生活・労働環境の改善、栄養改善などの保健予防活動は、長野県の長寿に貢献してきた大切な要因と考えられています。しかし今ではメタボ対策が叫ばれる栄養過剰時代となってしまいました。今回、佐久地域の保健予防活動のあゆみを振り返るとともに、地域で活躍している住民組織についての紹介もされました。健康で生きがいのある暮らしを実現するために、ともに考え、新たなきずなをつくりたいとのスタッフの希望が随所にあふれておりました。古い農家の居間や土間、肥え置きなど、リアリステックな展示も印象的でした。

医療トピックス館では、「新型インフルエンザに備える」と題して、住民の方々の理解と協力、個々の対策を考える機会となる情報をお伝えしました。他に健康館(善い菌増やして腸元気)、地域ふれあい館(支えよう輝くいのち・・・)、こども館(崖の上のポニョ・こどもの絵画展示・木工工芸)、お祭りわいわい広場(立体駐車場)食い倒れ横丁、その傍らでは雨を避けながら演奏されていた臼田中学校のブラスバンド部やGDK楽団、「わたげ会」のみなさんのパフォーマンスには熱い声援と拍手がおくられました。いこいの広場では院長の健康なんでも相談から演奏会、演劇など楽しいプログラムでいっぱいでした。看護専門学校と佐久大学の展示、白衣試着体験、鍼灸・お抹茶コーナー、農産物・図書の販売コーナー、山野草写真展などもありました。職員OB有志らによる映画上映は興味深いものでした。病院祭の映像を中心に上映されたアーカイブスでは、時間をかけて凝ったものを製作していた昔の病院祭の風景が映し出されていました。医学の歴史として語り継がれている若月俊一先生のカリエス切開排膿術は忘れることができない佐久病院の歴史的映像としてDVDに残されていました。何かの機会に若手医師らと一緒にまた見てみたいと思います。
語れば限りがありません。病院祭の前に全体会議で語った「住民の皆さんに寄り添い、かつ寄り添っていただける病院祭にしたい」という実行委員長としての願いが叶った楽しい2日間でした。関係各位の努力に感謝いたします。

(第63回病院祭実行委員長・大谷津恭之)

病院祭メインテーマ1

新たな地域医療を目指して~動き出した佐久病院再構築~

 第63回佐久病院病院祭が5月16日17日に開催されました。今年の病院祭のメインテーマ1は「新たな地域医療を目指して ~動き出した佐久病院再構築~」でした。今までの病院祭でも幾度となく取り上げられたテーマではあります。しかし、今年(平成21年)2月7日の県、厚生連(佐久病院)、佐久市、三者の再構築に関する合意を得て後初めての、そして佐久病院再構築早期実現に積極的な佐久市の柳田清二新市長誕生後初めての病院祭であったこともあり、準備をする職員にも病院祭に参加してくださった地域の皆様にも今までにない熱気を感じました。

Ⅰ.新たな地域医療を目指して

 基幹医療センター建設予定地のツガミ工場跡地を示しました。桜の季節は桜の花がとてもきれいで、遠くに浅間山を望むこともできます。工業専用地域ということですが、周りは決して工場だけでなく住宅がいっぱい建っているのがわかりました。療養環境として何も問題がないことをご理解いただきました。

(地域ケア科 北澤彰浩)

Ⅱ.佐久病院再構築計画の考え方

佐久病院再構築計画の考え方

 佐久総合病院の再構築は、単なる病院の建替えではなく、佐久広域ひいては東信地域全体の医療供給システムの見直しに繋がります。従って、医師会の皆さんや他の医療機関のみならず、地域住民の方々のご理解とご協力が必要です。佐久総合病院は、「いつでも、どこでも、誰でも必要なときに必要な医療サービスが受けられる」ことを目標に医療を行ってきました。「二足のわらじ」の言葉に表されるように、第一線の医療から専門医療まで包括的に担ってきました。しかし、医療の高度化、専門分化と診療圏拡大化の流れの中で、より広域に従来どおりの医療を提供することは難しくなってきています。このことは、国や県の地域医療計画が示すように「病院完結型医療体制」から多施設連携による「地域完結型医療体制」への流れを意味するものです。そこで、地域の医師会の先生方や他の医療機関のご協力を得ながら、地域全体で「二足のわらじ」を履き、医療の提供が滞らないことを考えることにしました。それが、今回の再構築の提案です。

(地域ケア科 北澤彰浩)

Ⅲ.基幹医療センターの役割

 基幹医療センターを一言でいうと、「専門家集団がさらにスクラムを組んで、集中的に治療にあたるところ」となります。①救急・急性期・専門医療を行う病院:外来は、紹介された患者さんや救急、予約の患者さんの診療を行います。身近な医療機関で対応可能な疾患は、その医療機関で治療していただきます。これを「機能分化」といい、そのためには「地域連携(医師会の皆さんや他の医療機関、市町村などと協力すること)」が大変重要になります。②複数科が協力して機能の向上を目指す:例えば脳卒中センターでは、脳梗塞(脳の血管が詰まり、その先の脳が死んでしまう病気)のときに、脳神経外科や神経内科、リハビリ科や放射線科が協力して治療にあたり、病気の進行をくい止め回復をはかります。③救命救急センター:ドクターヘリや救急車で運ばれる重症(2次、3次救急)の患者さんの治療にあたるところです。軽症(1次救急)の患者さんは、他の医療機関にお願いする仕組みをつくります。④高機能診断センター:診断機能に優れた機器をそろえ、他の医療機関の患者さんにも利用していただきます。

 (脳神経外科 渡辺仁)

Ⅴ.基幹医療センターのある町

基幹医療センターのある町

 人の一生または家族それぞれの生活の場の中心にあるのは家族、家族が集まって地域ができることを考えると、中心は地域と置き換えることもできます。基幹医療センターは、地域にあって決して利用しやすい病院ではないかもしれないが、いざというときあるととても安心できる、そんな病院を目指しています。 

(脳神経外科 渡辺仁)

Ⅵ.地域医療センターの役割

地域医療センターの役割

 地域医療センターの再構築は、単なる保健・福祉の施設や医療施設のハードの問題ではありません。地域医療のあり方を模索し、充実することは、当然必要です。しかしそれ以上に、住民とともに、新しい地域のあり方やコミュニティを、ソーシャル・キャピタルを再構築することなのです。地域の再生、地域の再構築に、地域医療センターの機能を利用していただきたいのです。

・地域医療センターの機能
①医療・保健・福祉を包括的に提供する本院。
②慢性期の医療、一般医療(特に生活習慣病)、1次~2次の救急、リハビリを中心に診療を行う。
③健康管理センター、健康増進センターを中心に保健活動を行い健康のまちづくりに協力する。
健康増進センターは、保健・医療・福祉の領域で共同利用する学習・教育のセンター。
・保健:健康増進、メタボ対策、健康教室
・医療:生活習慣病の指導・教育、慢性期リハビリ(循環器リハ、呼吸器リハ)
・福祉:介護予防(転倒予防、認知症予防、口腔ケア)
④福祉施設を周辺に、配置、誘致し福祉のまちづくりに協力する。
障害を持っても病気になっても住み慣れた地域で安心して暮らせるまちに。
以上の説明では、“まちづくり”のイメージがはっきりしません。次に、“まちづくり”にどのように参加するのか、できるのかを考えてみたいと思います。

(内科 朔哲洋)

Ⅶ.地域医療センターのあるまち ー健康と福祉のまちづくりー

1、地域医療センターの“まちづくり”戦略

 地域医療センターの“まちづくり”戦略は、地域のニードに基づいた、佐久病院の再構築の戦略であるとともに、崩壊しつつある地域コミュニティの再構築の戦略でもあります。


①健康づくり、生活習慣病の学習・指導のセンターをつくる。
健康増進センターを新設します。実際に運動できる施設や栄養指導、調理実習などができる施設です。屋外にはウォーキング・コースやテニス場などがあっても良いかと思います。それらを利用し患者さんのみならず、一般住民も、お年よりも利用可能な、健康づくり、生活習慣病の学習・指導のセンターとします。
②地域と協働し、「保健・医療・福祉の複合体」をめざす。
臼田地区は、高齢者専用住宅やグループホームなどの居住系福祉のサービスメニューが少ないのが実情です。また、授産施設やデイ・ナーシングなども必要かもしれません。しかし、それらの問題は佐久総合病院だけで解決できるものではありません。行政やNPO法人、地域の企業や商店、そして地域住民と協働しつくっていく必要があります。
そして、障害の種類や世代で細切れになりやすい施設をなるべくまとめ、施設群として運営することで人々の交流を促し、新しい地域づくりの原動力としていきます。
③健康情報センターをめざす。
よろず相談室を設置し、ばらばらに提供されがちな、健康情報、保健・医療・福祉情報を提供し、発信するセンターとします。

2、健康と福祉のまちづくりと「医、職、食、住、友、遊」の創設

 健康と福祉のまちのイメージは、一般住民、障害者、生活弱者、子どもがいきいきと暮らせるまち、誰もがいきいきと暮らせるまちと考えます。そのために必要なのは「医、職、食、住、友、遊」の創設と考えています。詳細は前号に掲載、ご参照ください。

(内科 朔哲洋)

Ⅷ.新しい医療体制

新しい医療体制

 普段はまず地域の開業医・診療所または地元の病院で診察を受け、その医師たちに主治医として関わりを持っていただく。そして、何か特殊な疾患や詳しい検査が必要になったときに紹介書を書いてもらい基幹医療センターや他の病院に紹介をしていただくようなシステムを目指します。
逆に、特殊な疾患の治療や検査が終了すれば従来からの主治医の医師に診てもらうことになります。もしくは特殊な治療と従来からの治療が両方必要な場合はあくまでも従来からの治療を担当してくださる医師を主治医として、特殊な治療を担当する医師をその疾患のみの担当医として複数で診てもらうことになります。よって複数の特殊な治療を必要とされる方は、1人の主治医と複数の担当医を持つこととなります。
つまりは病院完結型から地域完結型への移行です。

(地域ケア科北澤彰浩)

Ⅸ.住民主体の医療連携

 新しい医療体制を実現するには今まで以上の医療連携が必要になってきます。今までは医療連携といえば、どちらかというと医療機関同士が連絡を取り合ってシステムをつくるという印象があります。
しかし、今回の再構築を行う上での医療連携とは、住民の皆さんが中心で、皆さんにとって必要な連携・使いやすい連携をつくる必要があることを理解していただきたいのです。そして、そのことを実現するためには、住民の皆さんも一緒に考えていただきかないと実現できません。

(地域ケア科 北澤彰浩)

Ⅹ.病院の取り組み

病院の取り組み

 再構築を実現するために院内では各組織の立ち上げを行いました。
再構築を専門で担当する事務部門として再構築準備室を当初事務一人、後に二人体制にして組織しました。その後、再構築プロジェクト会議を組織し、検討課題に準じて6部会(基幹医療センター部会、地域医療センター部会、業務部会、IT部会、医療の質・安全・人材・教育部会、総務部会)を設置し、それぞれがその課題を検討しました。
このような院内の活動とともに、地域住民の皆さんと勉強会を開いたり、地域へ出ての医療懇談会も行いました。
そこから得た教訓は病院の運営に地域住民の提案を取り入れる体制をつくる必要があるということでした。今後は、そのような体制も具体的に考えていきたいと思います。
ここからは、院内の再構築プロジェクト会議の4部会(順に業務部会、IT部会、医療の質・安全・人材・教育部会、総務部会)の活動のまとめです。

(地域ケア科 北澤彰浩)

ⅩⅠ.業務部会報告 快適な病院づくり

 勉強会、現状把握、視察を通して、エネルギー、給食、物流の在り方について検討しました。 
エネルギーに関して当院ではエネルギーとして、電気、重油、ガスを使用しています。
昨年度の光熱費(使用料金)は約2億3100万円でした。CO2排出量は約7400tで、前年度よりも約4%減らすことができましたが、まだまだ多くのCO2を排出しております。そこで、今後取り入れるべきエネルギーを検討した結果、太陽光発電と緑のカーテン、そしてコージェネレーション設備の導入により、排熱を利用した効率的なエネルギー利用を考えております。
また、給水使用量は約4600万円で、下水処理にその1.5倍の料金がかかっており、井戸水、雨水の利用を考えています。
その他にも省エネを考えた照明や設備、人感センサーの取り入れも考えておりますが、いずれも設備投資にお金のかかる問題で、国や県の補助金を得て取り組めればと思っております。
給食に関して基幹医療センターの敷地の一角に給食センターを建設し、基幹医療センター、地域医療センター、小海分院、美里分院、2つの老健施設、そして看護学校へ給食を配給できるセントラルキッチン化を検討しています。また、法律的に問題がなければ小諸厚生総合病院との連携も考えております。
JAの協力のもとに、地元や国産の食材を使って安全な食事を提供するとともに、新調理法によって味を落とさず多くの方に暖かくおいしい食事を提供できるようにと考えております。また、必要に応じて病棟パントリー(病棟でのミニキッチン)で、患者さんの希望に対応していきたいと考えています。

物流と人流

物流と人流

 物流・人流での当院の現状と問題点は、①業務用として使用できるエレベーターは主に一基しかなく、②廊下を荷受(納品)場所として使用しています。③物品倉庫がとても狭く、④業者の入庫用入り口も狭く、通り抜けできない状態で、⑤流用可能な広いスペースもありません。いずれも、増築を重ね、老朽化し、現代の要求に合わなくなり、狭隘化し、スペース不足となったことから派生したものでした。
物流面では、給食センターと同様に、物流センターの設置を考えています。基幹医療センターだけではなく、関連病院や施設に対して診療材料の配送と集中管理ができるようにしたいと思っています。充分な在庫をもつことで材料備蓄の役割も兼ねるため、災害時などの材料供給も可能となります。また、今後は人と物の流れが交錯しないことが望まれ、①エレベーターは使用目的により可能な限り区別し、②用途・機能・各病棟フロアを色と表示マーク、文字などによって区別し、③案内表示も、色と文字、マークを組み合わせた目印を使うことで利用者の皆さんに分かりやすくしたいと考えております。出入り口を患者さん用、職員用、業者専用、夜間専用と分けたいと思っています。患者さん、バス、救急車、業者の方の進入や通行ルートを分け、敷地内及び周辺での渋滞を避けるようにし、感染症患者さんの搬送ルートも確保するように考えています。

業務部門のまとめ

①電気とガスと太陽光で、エネルギーを確保し
②給食センターでのセントラルキッチン化と地産地消
③食の安全を図り
④佐久地域の物流センターを建設し
⑤人と物の導線の交錯をなくし
⑥採光とセンサーによる省エネを図り
⑦色・マーク・文字によるエリア分けを採り入れ、快適な病院づくりを考えております。

ⅩⅠⅠ.電子カルテとIT導入で変わる近未来

1.チーム医療によるより良い医療サービスの提供

 電子カルテが導入されると病院内では、いつでも、どこでも、誰もがカルテや記録を見ることができるようになります。その結果、現在よりも患者さまの多くの情報を共有できるようになり、より良い医療サービスが提供できるようになります。

2.病院が快適になる!

 インターネットと接続できれば、外来では順番を取りに並ばなくてもよくなる可能性があります。また、検査などの待ち時間も短くなるでしょう。そして、業務を効率化することにより、医療に本来必要な「対話」の時間が取れるようになるでしょう。
入院では、部屋のモニター画面で検査結果が見られるようになりますし、日々の治療内容を患者さまとともに把握することにより、医療の安全性がさらに高まり ます。また、インターネットもできるようになりますし、病気の情報を調べることも可能です。食事のオーダーができるようになる可能性もあります。
電子カルテとは、病院内で発生する患者さまのさまざまな情報を一つに集めて、患者さまとともに医療関係者間で効率的に共有することができる仕組みです。

(地域ケア科 小松裕和)

ⅩⅠⅠⅠ.電子カルテを使った地域連携

 これまでの検査や診断の情報が、佐久地域のどの医療機関にかかっても見られることにより、お薬や検査の重複を防ぐことができます。また、検査結果や治療歴が継続して見られることにより、どの医療機関でも病気の経過を把握した質の高い医療が提供できるようになります。これは、医療機関だけに限らず、地域の訪問看護ステーションやデイサービス、特養や老健などの施設でも同じで、介護に関する情報も共有できることにより、より良いサービスが提供できるようになります。
また、電子カルテを使った地域連携により、どの医療機関でも専門医のアドバイスを受けながら治療を行うことが可能になります。これまでのように、専門医療機関から切り離されて地域の医療機関に戻るのではなくなるのです。また、逆に地域の主治医からのアドバイスを受けながら専門医療を受けることもできるようになります。
このように専門医と地域の主治医のそれぞれの良い点を継続しながら、医療を受けられるようになるのです。

(地域ケア科 小松裕和)

ⅩⅠⅤ.医療の質・安全、人材教育部会より、医療安全全国共同行動

“いのちを護るパートナーシップ”の紹介

医療安全全国共同行動 8つの行動目標

 病院の再構築は建物を新しくするだけではありません。この機会に安全で質の良い医療を提供するための仕組みも進歩させなければいけません。
佐久総合病院は医療の質・安全をさらに向上させる目的で、医療安全全国共同行動に参加しました。これは医療の質・安全学会が中心になって計画され、2008年5月に2年間の予定で発足した全国プロジェクトです。全国で3000以上の病院の参加と、年間1万人以上の死亡者数低減を目指しています。
佐久総合病院は次に説明する8つの行動目標全てに取り組んでいます。
①危険薬の誤投与防止:間違って使うと死亡事故につながりかねない高濃度カリウム製剤とインスリンを取り上げました。これらの薬剤の使用に伴う危険の低減を目的としています。 
②周術期の肺塞栓症予防:まれですが、ひとたび起きると重症化しやすい肺塞栓症の予防を目的としています。特に手術の後に起こることが多いため、そこに重点的な対策が必要です
③a経鼻栄養チューブ挿入時の位置確認の徹底:毎年どこかの病院で起きた死亡事故が報道される経鼻栄養チューブの誤挿入を防止することを目的としています。
③b中心静脈カテーテル挿入手技に関する安全指針の策定と順守:鎖骨の下などにある太い静脈に点滴用のチューブを入れる際の危険を減らすことが目的です。
④医療関連感染症の防止:抗生物質が効きにくいMRSA感染が関与する死亡を防ぐことを目的としています。手洗いなど基本的な注意事項を守ることが大切です。
⑤a輸液ポンプ・シリンジポンプの安全管理:輸液ポンプやシリンジポンプの使用を誤ると患者さんの命に関わることがあります。スタッフの教育と使用に関する定期的な技能チェックが必要です。
⑤b人工呼吸器の安全管理:人工呼吸器の使用に関連して起きる事故を防ぐことが目的です。使用中の呼吸器の動作点検項目や患者さんの状態をチェックする項目の標準化を進めています。
⑥急変時の迅速対応:患者さんが院内で急に容体が悪くなったとしても、命を救うことができる体制を整備することが目的です。
⑦事例要因分析から改善へ:一歩間違うと患者さんの健康に被害を与えかねない、でき事を分析し、重大な問題が起こらないよう対策が立てられる仕組みを作ることが目標です。
⑧a安全は名前から:患者さんを間違えると大変なことになります。患者さんを間違えないためのフルネームの確認を、患者さんにも参加していただきながら徹底することを目的としています。
⑧b患者向け図書室の設立:院内に患者さん向けの医療情報室を作り、患者さんが自分の病気などに関する質の良い情報を得やすくしたいと考えています。

(精神神経科 伊澤敏)

ⅩⅤ.地域の皆さんのお考えは?

地域の皆さんのお考えは?

 総務部会では、もう一度どのように再構築をすすめていけば良いのかを考えました。
その中で出てきた意見が、「病院の考える再構築の考え方を地域の皆さんがどのように受け止めておられるのかを実際に聞いてみよう。そのために、職員全員で地域に出て、各戸を個別訪問し病院の考えを説明し、賛同いただける方の署名をいただこう。賛同なさらない方の意見も大事に聞いてこよう」というものでした。
そして、実際に地域へ出て取り組んだ署名活動が行われました。

 (地域ケア科 北澤彰浩)
 

ⅩⅥ.署名活動(記者会見から合意まで)

 分割再構築案が平成13年に発表され、ツガミ跡地に土地を取得したのは、平成17年のことでした。以降地元行政に説明やお願いを重ねてまいりましたが理解がえられず、3年を経過してしまいました。この間、この地域の病院の医療崩壊は加速度的に進み、医師不足による病棟閉鎖や、機能の低下は顕著となり、佐久病院の建物の老朽化だけでは済まされない状況になりました。
この長期化する再構築問題で、知事は「これは土地問題ではなく医療問題である」と調整に乗り出し、三者協議の場を平成20年10月に設けましたが、求められるスピード化が見えにくい状況の中で、地域住民の皆様に私たちの考え方を、お聞きしてみたいと署名活動に入りました。住民の皆様や、患者会の皆様をはじめ、報道で当院の危機を知った全国の仲間たちの積極的な活動に支えられ多くの署名を集めることができました。
お蔭様で三者協議の5回目で知事裁定案が示され合意に至りました。建設までまだ多くの困難が予想されますが、行政や関係機関のご協力をえながら、早期に新病院の建設と地域医療センターの着工を目指したいと考えています。

(再構築準備室 上野順一郎)

ⅩⅦ.佐久病院再構築 ニュースから振返る1年

 再構築問題が長期化し、近隣医療機関からの重症化した患者様が佐久病院に集中するなど、多くの職員が疲弊感を持っています。そのような状況のなかで、住民の皆様の支援活動や、議会・行政の動きなどを職員同士が情報を共有し、一丸となって取り組むことができるように、佐久病院再構築ニュースを平成20年6月から発行しています。多忙な業務のなかでの発行ですので、署名活動中は残念ながら発行できませんでしたが、「もっともっと知ってほしい」との気持ちで1カ月2~3回の発行を心がけてきました。佐久病院の有史以来のできごとが、記録として残ることが重要と考えています。

(再構築準備室 上野順一郎)

ⅩⅧ.署名数推移

 職員はもとより、OB会、支援する住民の会や患者会の皆様、全国の皆様の意思表示である署名が17万8,508名分集まりました。全職員が休日を利用して地域に出る統一行動日を11月、12月と1月に設定し、6日間で延べ約1,700名の職員が地域活動に参加しました。寒風のなかの訪問で、「不安だったけれども行って良かった」と帰ってきました。この活動を通して職員は怒られたり、励まされたりしながらも「地域に出る」という原点を思い起こすことができたと思いますし、住民の皆様と直接お話ができたことは、今後の医療活動に役立つと思います。

(再構築準備室 上野順一郎)

ⅩⅨ.みんなで創るとは

みんなで創るとは

 皆さんの署名の後押しやさまざまな働きかけがあり、何とかここまで(ツガミ跡地に基幹医療センターを建設することで長野県・佐久市・厚生連で検討を進める合意に到った)来ることができました。しかし、これからが本当は一番大事なところだと考えております。再構築は決して病院だけでするものではないからです。いや、病院だけでは到底できません。つまりは、地域の皆様と一緒に行う必要があります。
そこで、みんなで創るということを考えてみました。地元の皆さんの想い(要求・必要)はさまざまです。私たちはその想いに耳を傾け、なるべくそれらが実現できるようにと考えています。
しかし、そのときに気を付けないといけないのが、同じ想いでも「要求」と「必要」は別のものだということです。私たちは、住民の皆さんと地域の「必要」を受け止め守っていきたいと考えます。

(地域ケア科 北澤彰浩)

ⅩⅩ.新たな地域医療

 これからの地域医療を守るためには今までとは違った体制を創る必要があることをご理解いただけたと思います。そして、それを創るのは決して医療従事者だけではなく地域の皆さんも一緒に創らなければならないことを訴えました。皆さん、これからもよろしくお願いいたします。
一緒に新しい地域医療を創りましょう。

(地域ケア科 北澤彰浩)

最後に

私たちの考える再構築

 私たちの考える再構築は佐久市・南佐久郡・北佐久郡・上田市の住民及び佐久病院に受診してくださる方々が、今までどおり今お住まいの地域で安心して暮らせるように医療の側面からサポートし、持続させるためのものです。多少、ご不便をお掛けすることも出てくるとは思いますが、この地域に住む方々の「必要」に応えることが一番重要なことと考えております。そして、そのことは決して病院・医療従事者だけで考えることではなく地域の皆様と一緒に考える必要があると考えております。繰り返しになりますが、皆さんのご理解とご協力をよろしくお願い致します。