基幹医療センターのコンセプトと再構築の進捗状況(1)

1、再構築の基本的考え方

 佐久病院の再構築は、単なる病院の建て替えではありません。キーワードは、「病院完結型医療体制」から「地域完結型医療体制」への転換です。他の医療機関や医師会の先生方と連携し、それぞれの医療機関がその役割を充分に発揮し協働する中で、安心して暮らせる地域をつくっていくことを目指しています。ですから佐久病院の再構築は、佐久広域ひいては東信地域全体の医療供給システムの見直しに繋がります。従って、医師会の皆さんや他の医療機関のみならず、地域住民の方々のご理解とご協力が必要です。

建設予定地試験飛行(2月13日)
建設予定地試験飛行(2月13日)

 佐久病院は、「農民とともに」を合言葉に、巡回診療を行い「地域の中へ」入っていきました。潜在疾病を早期に見つけ出し治療することを目指しました。これを第1期と考えます。第2期は、専門医療の充実をする中で、東京や長野に行かなくても佐久の地で治療ができることを目指しました。現在の本館の建設とともに多くの専門医を確保し、診療科を増やしてきました。
再構築は第3期です。第一線医療と専門医療の 「2足のわらじ」を、他の医療機関と協働しながら分担することを目指しています。診療圏の拡大や医療の専門分化の中で、「2足のわらじ」を1人の医師や佐久病院だけで担うのが難しくなっているからです。議論が尽きているわけではありませんが、「農民とともに」歩んできた佐久病院の歴史的な転換点と考えます。

2、再構築と両センターの機能分担

 再構築は、基幹医療センターを建設する1期計画(平成25年度開院)、地域医療センターを建設する2期計画(平成28年度運営開始)、医療情勢や運営状況を勘案した補完工事を行う3期計画があります。この中で重要なのは、基幹医療センターと地域医療センターをどのようなコンセプトで分割し再構築するかだと考えます。

職員への説明をする朔本部長(2009年12月15日)
職員への説明をする朔本部長(2009年12月15日)

 基幹医療センターは、救急・急性期医療・専門医療に特化した紹介型の病院を目指します。重要な点は2点あると考えています。まずは、救急・急性期医療・専門医療を担えるしっかりした診断・治療の機能を持つことです。診断・治療のトップランナーを目指すことなしに、地域の他の医療機関や住民の信頼は得られません。
次に、いつでもスムーズに紹介患者さんを受け入れ、治療が一段落した患者さんを地域の医療機関にお返しする機能です。いくら良い医療を行っても、入り口が狭ければ連携はできません。また、出口がなければ病院はパンクし本来の機能を果たせなくなります。余裕を持って、救急・急性期医療・専門医療に専念できる環境をつくるためには、紹介・逆紹介を積極的に推し進める必要があります。
救急や紹介患者に対応した専門医療、手術に専念できる環境を確保し、佐久広域、東信地域での地域医療支援病院を目指すことが必要なのです。
地域医療センターは、地域に密着した市民の病院として、医療・保健・福祉サービスを包括的に提供する本院です。一般診療及び2次救急診療を行うとともに、生活習慣病を中心とした指導・教育・学習のセンターとなることを目指しています。

3、パラダイムシフト

職員への説明会(2009年12月15日)
職員への説明会(2009年12月15日)

 両センターを運営するには、パラダイムシフトが必要と考えます。パラダイムシフトとは、「ある時代・集団を支配する考え方が、非連続的・劇的に変化すること」です。
両センターに分割し運営するには、人員を2つに分ける必要があります。しかし、分割をすると運営上の非効率になる面があります。人員を補充するか、担っている仕事を整理する必要があります。もちろん、必要な人員の補充は進めますが、一方で担っている仕事を整理する必要もあると考えます。
佐久病院は、地域のニーズに応えるために第一線医療から専門医療まで担ってきました。また、どんな地域からの患者さんの診療も行なってきました。まさしく「病院完結型医療体制」を構築してきました。しかし、一般医療の一部分、特に外来診療は、地域の医療機関や開業医の先生方と協働して診療をするなかで、仕事を減らす必要があります(つまりは、外来診療を中心に一般診療の患者さんを、地域の医療機関や開業医の先生方にお渡ししていく中で外来患者数を減らす必要があります。

ただし、お渡しする中で安心できる医療連携を構築するのが前提です。それが「地域完結型医療体制」です。
もちろん、地域医療センターは従来どおり、臼田地域を中心とした地域の第一線医療を守っていきますが、診療圏は小さくなります。

4、基幹医療センターの柱となる4つの診療機能とその他の6つの機能

 再構築推進本部会議の中で議論された基幹医療センターの柱となる4つの診療機能と、その他の6つの機能を以下に示します。
A:4つの診療機能
① 救命救急医療機能
② 脳卒中・循環器病センター機能(血管治療機能)
③ がん診療センター機能
④ 周産期母子医療センター機能
B:その他の6つの機能
① 専門医療機能
② 災害拠点病院機能
③ 地域医療支援機能
④ 高機能診断センター機能
⑤ 研修・教育機能
⑥ 患者サポート機能
その内容に関しては、現在もワーキンググループで検討が重ねられています。いずれ、まとまった形で提示をしていきたいと考えています。

5、基幹医療センターのコンセプトと設計の検討

 運営や設計の検討を重ねる中で、基幹医療センターのコンセプトに繋がる重要なキーワードがはっきりしてきました。

① 基幹医療センターは、急性期医療、専門医療に特化した紹介型の病院を目指します。

建設予定地での患者搬送訓練
建設予定地での患者搬送訓練

 「病院完結型医療体制」から、「地域完結型医療体制」へ転換し、地域医療支援病院を目指します。
実現のためには地域医療連携室の強化が必要です。また、ITを利用した地域連携システムを構築し、基幹医療センターの診療録や検査データ、レントゲン画像を、ネットワークに参加した診療所の先生方に開示していく予定です。

建設予定地での患者搬送訓練
また、外来縮小と紹介率の増加への対策も必要になります。新病院に合わせた新たな経営指標の検討も必要です。
健康診断、人間ドック後の2次精検も、身近な診療所で行っていただいた方が良いものと、基幹医療センターで行った方が良いものとを切り分けて利用者に説明していく必要があります。

② 佐久広域、東信地域の基幹病院となれるよう、診断・治療のトップランナーを目指します。

 既存の診療内容や医師の技能だけを元に基幹医療センターを構築すると、決して良いものはできないと思います。診断や治療のトップランナーを目指すことで、診療の質の向上は図られます。
異論はまだありますが、PET-CTの導入とサイクロトロンの設置を前向きに検討しています。また、評価が定まっていないハイブリッド手術室も、これからの発展性を評価し導入します。

③ 「高機能診断センター」を設置し、地域連携システムを構築し、検査・診断機器の共同利用を進め、佐久広域の検査センターを目指します。

 日本の医療機関は、機能分担と関係なく高額な医療機器を導入し競争してきました。基幹医療センターの医療機器を地域に開放し、診療所の先生方に、自院の検査室のように利用していただければ、無駄な投資を抑えながら診療所の医療の質を上げることができます。逆に、基幹医療センターにとっても高額医療機器の利用率が上がり、新規の機器導入を行いやすくなります。
そのことは、佐久広域、東信地域の診断・治療の底上げをすることに繋がります。

④ 地域医療支援病院として地域の医師・研修医、医療従事者の教育に力を注ぎます。

 地域医療支援病院には、地域の医師・研修医、医療従事者の教育をすることが求められています。どのような研修、教育が必要なのかーどのような研修施設が必要なのか検討が進められています。救命救急士さんの研修施設、検査治療手技や手術、看護業務のシミュレーション学習ができる施設などのアイデアが検討されています。

⑤ 東信地域のマグネットホスピタルとして、医師や医療従事者の確保に努めます。

 中山間地域の医療機関にとって、医師やコメディカルの確保は重大な課題です。また、自治体にとっても、保健師や看護師、ケアマネージャーなどの確保も重大な課題です。地域完結型医療体制を維持発展させるために、基幹医療センターにどのような役割があるのかを検討していく必要があります。

⑥ 生きがいある暮らしが実現できる地域づくりに参加します。また、人々が集える病院を目指します。

予定地住民の方々・柳田市長・院長での記念撮影
予定地住民の方々・柳田市長・院長での記念撮影

 患者図書館、医療情報コーナー、家族待合、レストラン、ホール、公園、遊歩道などをどのように配置すれば、地域づくりに貢献できるのか検討が進められています。
佐久病院らしさをもった基幹医療センターにしていくために、建築時に盛り込むべき内容の検討を行っています。
 

⑦ 総合医療情報部を立ち上げ、医療情報を総合的に収集し、経営、治療成績、クオリティーインデックスなどを分析し公表します。

 治療の成績や患者満足度、経営の指標などを今以上に収集分析するために、総合医療情報部を新設します。同時にがん登録や疾病登録を推し進め、がんサーベイランスの体制の検討を行っています。

⑧ 職員が誇りを持って働ける、働きやすい病院を目指します。

 職員のアメニティや働きやすい動線、物流などの検討を行っています。

⑨ セントラルキッチンを利用した宅配サービスを作り、自宅でも治療食が食べられる地域を目指します。

 食事は治療の基本です。しかし、高齢者の方にとっては栄養指導を理解して実践することは大変なことです。糖尿病食や透析食などを宅配できれば、慢性の疾患の治療を行っている方にとって暮らしやすい地域にすることができます。術後食を宅配できれば手術後の不安を減らすことができます。セントラルキッチンを利用した宅配サービスが実現できないかを検討しています。

⑩ 地球環境に優しい病院を目指します。

 太陽光の利用や地熱利用、水力による発電などの可能性を検討しています。(次号に続く)