甲状腺がん

1.甲状腺について

 甲状腺は首の気管前面にくっついた形で存在し、いわゆる「のど仏」の下方にある臓器で重さは15グラム程度です。甲状腺の後ろには反回神経という声を出すのに必要な神経が両側に走っています。また、気管の後ろには食道があり、外側には頚動脈や頚静脈があります。
甲状腺は甲状腺ホルモンという日常生活に必要不可欠なホルモンを分泌する臓器です。そして、そのホルモンレベルは脳にある下垂体という臓器の指令により調節されています。
甲状腺の病気としては、バセドウ病、甲状腺腫瘍(良性・悪性)、慢性甲状腺炎など多彩なものが含まれますが、今回は悪性腫瘍である甲状腺がんについて解説します。

甲状腺がんについて(13.5KB)

2. 甲状腺がんの特徴

 甲状腺がんには他のがんと比べていくつかの特徴があります。
まず、性別では男女比が1:5と圧倒的に女性に多いのが特徴です。次に年齢層では若年者から高齢者まで広い年齢層に分布しています。また、後述する未分化がんというがんを除いては、一般的に進行が遅く治り易いがんであるのも大きな特徴です。
 他のがんでは、リンパ節転移などのがんの進行程度で治癒率が異なりますが、甲状腺がんでは後述する組織型(顕微鏡検査での分類)が治癒率を決める最も重要な因子です。

3.甲状腺がんの種類

 甲状腺がんは、顕微鏡検査で行う組織分類により、乳頭がん・濾胞がん・髄様がん・未分化がんに分類されます。
 このうち、乳頭がんが全甲状腺がんの約90%を占めます。次いで濾胞がんが多く、この両者を総称して、分化がんと言いますが、治る可能性の高いがんです。髄様がんは数が少ないですが、分化がんに比べるとやや悪性度の高いがんです。
 一方、未分化がんは、極めて進行が早く、治療成績は極めて不良です。

4.甲状腺がんの症状

 甲状腺がんの症状は、前頚部にしこりを触れるだけです。ただ、前頚部のしこりで甲状腺の腫瘍と判明してもそのすべてががんであるわけではなく、良性のものが90%以上を占めます。
以上は、分化がんの場合であって、未分化がんでは、急激な増大、痛み、息苦しさなどの症状を呈します。最近は人間ドックや頚部血管の検査で無症状のうちに偶然発見されることもあります。

5.甲状腺がんの診断

 手で触る触診以外に超音波検査(エコー検査)が最も優れた補助診断方法です。超音波検査は苦痛が少なく、繰り返し行なうことができ、甲状腺の病気では最も行われる方法です。その他には、レントゲン検査・シンチグラム検査・CT検査などが行われます。
触診や超音波検査で悪性が疑われた場合には、しこりに針を刺してがん細胞の有無を調べる穿刺吸引細胞診を行います。大きなしこりでは外来で行いますが、 外から触らないような場合には放射線科で超音波検査をしながら針を刺します。この方法は組織型の推定もできますので、その後の治療方針に重要な情報を提供 してくれます。
血液検査では、甲状腺がんに特徴的な検査はありませんが、甲状腺ホルモンの値などを調べます。

6.甲状腺がんの治療

(1)手 術

 乳頭がん、濾胞がん、髄様がんは原則として手術の対象となります。病変の広がりにより、甲状腺全部または半分(片葉)を行い、周囲のリンパ節を切除します。頚部にリンパ節転移が広がっているようなときはそちらの頚部全体のリンパ節切除(リンパ節郭清術)を行います。  手術前日に入院します。手術は全身麻酔で行い、1時間半から2時間程度の手術時間です。輸血をするこaとはありません。手術翌日から食事・歩行が可能であり、手術後3~4日で退院可能です。危険性は極めて低い手術です。  ただ、手術後の合併症として、反回神経麻痺が生じる可能性があります。その場合、声がかれるとか、水分を飲むとむせるといった症状が認められます。  甲状腺全体またはほぼ全部を切除した場合は、甲状腺ホルモンを服用して頂く必要があります。 (2)化学療法・放射線療法

(2)化学療法・放射線療法

分化がんに有効な化学療法(抗がん剤)はありません。未分化がんでは化学療法・放射線療法が中心的な治療方法です。

7.甲状腺がんの治療成績

 未分化がんを除き、甲状腺がんは他のがんに比べて治りやすいがんです。特に大部分をしめる乳頭がんでは術後10年生存率は90%を越えます。
佐久病院の甲状腺がんの手術件数は、2001年 6例、2002年 6例、2003年 6例、2004年 12例、2005年 16例でした。