胃がん

胃癌診療指針  佐久総合病院・胃腸科医長 友利彰寿

はじめに

早期胃癌症例が増加する一方で、依然として晩期胃癌症例や再発症例も少なくない。早期胃癌症例に対しては内視鏡的粘膜切除や腹腔鏡下手術、機能温存術式を 含む縮小手術が行われ、一方、進行癌に対しては超拡大手術や術前化学療法などが行われており、癌の進行程度に応じて様々な治療法が施行されるようになっ た。  
このような治療対象の多様化に対応して、胃癌の治療法についての適正な適応を示し、胃癌治療における施設間差を少なくすることなどを目的に、日本胃癌学会から2001年3月に治療ガイドラインが示され、2004年4月に改訂された。  
当院では、この日本胃癌学会/編の「胃癌治療ガイドライン 2004年4月改訂 第2版」に準拠し胃癌の診療を行っている。

診断

 胃癌の治療法は、癌の進行度別に選択されるため、癌の進展度(大きさ、広がり)、組織型および深達度(深さ)および転移の有無を検索することが重要である。
癌の進展度、深達度および組織型診断には、内視鏡検査は必須である。近年では、胃粘膜の表面構造や微細血管を詳細に観察できる拡大内視鏡や特殊光が開発さ れ、胃癌の診断に広く用いられるようになってきた。当院でも、これらの内視鏡装置を導入し、病変の広がりを正確に診断するとともに、組織型を正確に判断で きる部位を同定した上で生検(組織診断)を行っている。また、通常の内視鏡検査に加え、胃壁の断面を観察することが可能な超音波内視鏡検査も併用し、胃癌 の深達度診断を行っている。

 転移の検索には、体外式超音波、CT・MRIを行い、また必要に応じて骨シンチグラフィーなどの各種画像検査も追加して、リンパ節転移や遠隔転移診断を行っている。
上述の各種画像検査による進行度診断を行うとともに、全身状態の評価として、腫瘍マーカーを含む血液検査、腎機能や肝機能の評価、あるいは心エコーや呼吸機能検査による心肺機能評価などを適宜施行している。

癌の進行度

 胃癌取り扱い規約によれば、胃癌の進行度(病期; Stage)は、T因子(癌の大きさ・深さ)とN因子(リンパ節転移の程度)によってIA-IVまでの6段階に分類されている。また、H因子(肝転移)、 M因子(遠隔転移)、P因子(腹膜への播種性転移)およびCY因子(腹水細胞診)のいずれか1つでも陽性であれば、stageIVと判断される。

-T因子-
T1:癌が粘膜または粘膜下層にとどまっている
T2:癌が筋層または漿膜下層にとどまっている
T3:癌が漿膜に達しているか表面に露出している
T4:癌が周囲臓器に浸潤している

T因子

-N因子-
N0:リンパ節への転移がない
N1:胃に接したリンパ節(1群)に転移がある
N2:胃を養う血管に沿ったリンパ節(2群)に転移がある
N3:さらに遠くのリンパ節(3群)に転移がある

N因子

進行度別に見た治療法の選択

胃癌治療ガイドラインでは、治療法の選択(適応)を日常診療として推奨すべき治療法(表1)と臨床研究としての治療法(表2)に分けて提示している。後者 は、治療効果の評価が確立していない治療、あるいは一部の施設で研究的に施行されている治療法としており、これらの治療法を行う場合には、あらかじめ患者 にその理由を説明し、患者の十分な理解を確認した後、同意書を取得することが望ましいと記載している。
当施設では、これらの指針に準拠して治療法を選択しているが、近年、内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Resection: ESD)が開発され、内視鏡治療の対象が拡大しつつあり、StageIA病変に対して内視鏡治療を積極的に行っている。
また、進行度や全身状態などの問題で治療法の選択に苦慮する場合は、消化器内科、消化器外科および放射線科や各科専門科の医師からなる治療検討会(キャンサーボード)において検討を行った上で、治療法を決定している。

胃癌治療ガイドライン

胃癌治療ガイドライン

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

ガイドラインでは、内視鏡的粘膜切除法(Endoscopic Mucosal Resection:EMR)の適応原則として、「リンパ節転移の可能性がほとんどなく、腫瘍が一括切除できる大きさと部位にあること」としており、具体 的には「2cm以下の肉眼的粘膜癌と診断される病変で、組織型が分化型。肉眼型は問わないが、陥凹型ではUL(-)に限る。」と規定している。
ガイドラインでは、内視鏡的治療には切除標本の組織学的検索が必須であり、切除断端や最深部の癌の浸潤を正確に診断するためには一括切除を原則とする、と の立場から内視鏡的粘膜切除(EMR)の適応を2cm以下と規定した。しかし、近年では内視鏡的粘膜下層剥離術が開発され、大きな病変を正確に一括切除す ることが可能となったことから、内視鏡的治療適応を拡大が試みられている。

-適応拡大病変-
Gotodaらの報告に基づき、以下の早期癌はリンパ節転移がないカテゴリーに入り、現在、研究的位置づけながら、適応拡大として内視鏡的切除が行われている。
① 分化型、M癌、UL(-)、サイズ制限なし 
② 分化型、M癌、UL(+)、3cm以下 
③ 分化型、M癌、SM1(<500μm)、3cm以下 
④ 未分化型、M癌、UL(-)、2cm以下 

当院では、この適応拡大病変に対しては、積極的にESDによる一括切除を行っており、切除標本での詳細な病理組織学的検索の結果でリンパ節転移の危険を認めた場合、外科的治療を行うこととしている。

外科治療

詳細は外科治療の項目を参照のこと。
胃癌の手術には、定型手術が標準的に行われているが、リンパ節転移の可能性が低い病変に対する縮小手術や、拡大手術、非治癒的な減量手術や緩和手術な ど、病態や全身状態に応じた術式の選択がなされる。また、腹腔鏡下に行う低侵襲な手術なども進められつつある。

化学療法

 詳細は化学療法の項目を参照のこと。
切除不能進行・再発胃癌に対し行われており、以前に比べ高い腫瘍縮小効果が実現できるようになった。また、最近の研究により、StageII/III癌に対する術後補助化学療法の有効性が証明され、積極的に術後補助化学療法が行われるようになっている。

放射線治療

 胃癌は放射線に対する感受性が低く、本療法のみでは根治性を求めることはできない。骨転移や癌の浸潤による疼痛緩和には有効とされる。

免疫療法・免疫化学療法

 この分野は、延命に寄与したとの報告もあるが、臨床的評価が不十分であり、今後さらなる研究が必要とされている。
当院では、本療法は行っていない。

温熱化学療法

 集学的治療として化学療法との併用で腹膜播種症例の再発予防などで、臨床研究が施行されているが、安全性を確立した上で精度の高い臨床試験が要求される。
当院では、本療法は行っていない。

胃がん化学療法指針  佐久総合病院・腫瘍内科部長 宮田佳典

I.胃癌で化学療法の対象となる進行度と治療法の概容を示す。

各治療の詳細については日本胃癌学会が定めた「胃癌治療指針」を参照すること。

II.化学療法の対象となる進行度

A Stage II/III
(1) 手術 + 化学療法
B Stage IV
(1) 化学療法
(2) 緩和ケア

III 化学療法

A 補助化学療法:S1 x 1年間
B Stage IVに対する化学療法は次の順番で投与可能性を検討する
(1) S1+CDDP
(2) S1
(3) CPT11+CDDP
(4) CPT11
(5) Paclitaxel

IV 入院の適応

A ESD
B 化学療法目的の場合は治療前検査を含む
C シスプラチン投与時
D 食事摂取が困難
E 外来では対応不可能な症状