造血器腫がん

(1) 造血器腫瘍について

 血液は「白血球」や「赤血球」、「血小板」と言ったいろいろな種類の細胞で構成されています。これらの細胞は、骨の中にある「骨髄」と呼ばれる造血組織 の中で、全て血液の細胞の元となる一つの「造血幹細胞」から生まれるのです。この造血幹細胞は、様々な蛋白質の影響を受けて形を変え成長していきます。こ の過程を「分化・成熟」と呼んでいます。この成長過程のどの段階でもがんがおこる可能性があり、だから血液のがんには沢山の種類があるのです。

造血幹細胞が成長する途中でがん化して、血液や骨髄で異常に増殖してしまうのが白血病です。白血病の患者さんは、10万人に数人程度ですから、胃がんや 肺がんに比べれば決して多くはありません。しかし、子供さんから大人まで誰にでも起こりうる病気で、最近では寿命の延びに伴いお年寄りの患者さまが増える 傾向にあります。

造血幹細胞は、成長の過程で、まず「骨髄系」と「リンパ系」の2種類に分かれます。従って、白血病も大きく「骨髄性白血病」と「リンパ性白血病」に分か れます。また、ある一定の成長段階の細胞がどんどん増えて骨髄が異常な細胞(白血病細胞)で占拠されてしまうのが「急性白血病」です。急性白血病は、激し い症状が現れて、病状も急速に変化するのが特徴です。一方、がん化した細胞が成長を続けて続々と血液中にまで出てくるのが「慢性白血病」です。慢性白血病 は、進行が遅く、症状も軽いことが多いので、最近は、健康診断で初めて発見されること少なくありません。

白血病になると、骨髄では正常な血液細胞が上手に造られなくなってしまいます。その結果、正常な血液細胞が極端に減少して様々な症状が現れます。赤血球 が減ると「貧血」と言って息切れや動悸などの症状が起こります。白血球が減ると、感染症にかかりやすくなって、風邪のような症状が長びいたり、治りにくく なります。血小板が減ると出血斑ができたり、歯茎から出血することがあります。ただし、これらの症状は白血病でなくても見られることがあるので、詳しい検 査をしてみなければなりません。

リンパ系組織は、全身に分布している「リンパ節」とその間をつなぐ「リンパ管」で成り立っています。そして、外から侵入した病原体を取り除き、体をまも る免疫としての役割を担っています。また、リンパ球を増やす役割も果たしています。リンパ球ががん化して、リンパ節で増える病気が「悪性リンパ腫」です。 毎年1万人程の患者さまが発症します。白血病はがん細胞が血液や骨髄で増えますが、悪性リンパ腫では、がん化したリンパ球がリンパ節で増えるためリンパ節 が腫れてきます。また、リンパ系組織がうまく働かなくなるので、体の防御機能が低下して、感染症の症状が起こります。通常、頸や脚の付け根など表面にある リンパ節の腫れで気づくことが多いのですが、腹部など体の奥にあるリンパ節が腫れた場合は気づきにくいため、人間ドックで見つかる場合もあります。そし て、病気が進むにつれて、次第に腫れが大きくなったり、幾つもできてきます。その他、体がだるくなったり、原因不明の発熱が続いたり、体重が減ったりいろ いろな症状が現れます。

リンパ球の一種である「形質細胞」ががん化した病気が「多発性骨髄腫」です。形質細胞は、「抗体」という蛋白質を作り、病原体から体を守る働きをしてい ます。お年寄りに多く、毎年10万人に2-3人程度の患者さまが発症します。骨髄腫細胞は、骨髄で増殖するため、上手に血液細胞が造れなくなって白血病と 似たような症状が現れます。また、骨髄腫細胞は増えながら骨を壊してしまうため、骨がもろくなって体が痛んだり、血液中にカルシウムが流れこんでしまいま す。また、骨髄腫細胞が作る「抗体(M蛋白)」は、役に立たないばかりでなく、腎臓などの臓器の働きを損ねてしまいます。このようにして多発性骨髄腫で は、全身にいろいろな症状が現れます。

(2) 造血器腫瘍の治療方針

がんにはいろいろな治療法がありますが、血液のがんでは、抗癌剤を使った「化学療法」が治療の中心です。治療方針を決める時には、まず「ご自分のがんがど のタイプで、どんな治療法があるか。その治療法でどのくらい効果が期待できるのか」、副作用だけでなく、「治療後どの程度の生活が送れるようになるのか」 など、ご家族も交えて良く話し合いましょう。

急性白血病治療の最初の目標は、数種類の抗癌剤を使って、白血病細胞を十分減らし、症状もない「完全寛解」という状態を達成することにあります。完全寛 解に達しても、まだ体の中には白血病細胞が残っているので、更に化学療法を続ける必要があります。こうして段階的に白血病細胞を減らしていきます。治療が 効きにくい白血病では、「造血幹細胞移植」が検討されます。ただ、この治療がうまくいくには幾つかの条件がありますので、担当医とよく相談してみることが 大切です。その他、「抗体療法」や「分化誘導療法」、「三酸化ヒ素化合物」、「分子標的療法」など白血病のタイプに応じて、次々と新しい治療法が開発され ているのも白血病治療の特徴です。

悪性リンパ腫の治療は、リンパ腫の種類や進行度により異なります。治療の中心が「化学療法」である点は、白血病と同じです。更に、リンパ腫のタイプに よっては、従来の「化学療法」に新たに「抗体療法」を組み合わせることで、治療効果が一層高まることが言われています。最初の治療は、入院が必要ですが、 慣れてくれば副作用に注意しながら、外来通院治療が可能な場合もあります。その他、「放射線療法」、「外科的治療」、「造血幹細胞移植」などの治療法があ ります。

多発性骨髄腫の治療も、他の血液がんと同様、「化学療法」が治療の中心です。進行度や患者さまの状態に応じて治療法を検討します。骨髄腫では、骨病変に 対して進行を抑えるために、「ビスホスホネート療法」や「放射線療法」、「外科的治療」を行うことがあります。

このように、血液がんには沢山の種類があり、抗癌剤が効きやすいものから効きにくいものまで様々です。また、患者さまの年齢や持病の有無、病気の進行具合など、たとえ同じ病気であっても患者さまの状態に応じて治療の方法をよく検討することが大切です。

(3)造血器腫瘍の過去5年の診療実績

(2000年~2004年の患者実数:436人)

白血病
急性骨髄性白血病   63人
急性リンパ性白血病 13人
慢性骨髄性白血病   17人
慢性リンパ性白血病 15人
悪性リンパ腫
ホジキン病         11人
非ホジキン病     172人
多発性骨髄腫       83人
骨髄異形性症候群 62人
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(4)造血器腫瘍の担当医師名

 人口の高齢化が進んでいる私達の地域の特徴として、血液疾患やがんの患者さまにもお年寄りが多いことがあげられます。お年寄りのがんは、ある意味では老化現象の一つと考える事もできます。この観点から、患者さま(ご家族も含めて)の自己決定権、選択権を尊重した医療を基本に、私たちも一緒に悩み、勉強させていただきたいと考えております。

三石 俊美 (内科医長、外来診療:月・水)  

日本内科学会認定内科医、日本血液学会認定専門医

森  勇 一  (内科医長、外来診療:火・木)  

日本内科学会認定内科医、日本血液学会認定専門医