大腸がん

大腸癌の診断治療指針

佐久総合病院・胃腸科医長 堀田欣一

 大腸癌は本邦において近年、増加傾向にあり、2006年度のがんの年齢調整死亡率においては女性で第1位、男性では第4位となっている。がん罹患率 (2002年)においても女性で第1位、男性で第2位である1)。そのため、大腸癌を検診で早期発見し、死亡率を減少させる対策は国家的急務と考えられて いる。

大腸癌検診

 現在、40歳以上の国民にがん検診として免疫学的便潜血反応検査2日法が行われている。免疫学的便潜血反応検査は遂年で行うことにより、大腸癌の死亡率 を減少させることが複数の研究で証明されている優れた検診法である。しかし、本国においては受診率が20%以下と低く、要精検者の精検受診率も約60%で あり、実際に死亡率を減少させる効果が得られていないのが現状である。また、免疫学的便潜血反応検査は感度についてはそれほど高くない検査であり、大腸癌 の方でも陰性となる可能性がある。それゆえに、血便、便通異常などの自覚症状がある方は必ず医療機関を受診することが勧められる。

大腸癌の診断

 大腸癌の診断で最も重要な検査法は大腸内視鏡検査である。大腸癌の発見、深達度診断(癌の深さ)(図1)に加えて生検採取による組織学的診断が可能であ る。当院では詳細な診断が可能な拡大観察、特殊光観察などの機能が付加された内視鏡(図2)を日常的に用いている。早期癌の診断においては、深達度診断が 最も重要であり、内視鏡治療の適応か否かの診断がなされる。また、全身状態評価、腫瘍マーカー、注腸X線、CT、MRIなどを行い、病期(ステージ)診断 を行った上で、最終的な治療方針を決定する。

大腸癌の治療

 大腸癌の治療法は病期(ステージ)(図3)に応じて決定される。基本的には大腸癌治療ガイドライン2)に基づいて治療方針を決定している。ステージ0あ るいはIの場合には術前深達度が粘膜内あるいは粘膜下層軽度浸潤、最大径2cm未満であれば基本的に内視鏡的粘膜摘除術(EMR:endoscopic mucosal resection)が選択される。最大径2cm以上の場合には内視鏡的治療が可能な病変は内視鏡的粘膜摘除術(EMR)あるいは内視鏡的粘膜下層剥離術 (ESD:endoscopic submucosal dissection)が選択される。内視鏡的摘除後の病理診断にて追加切除の基準に相当する場合には追加腸切除を行う。巨大病変、部位的困難病変には外 科的腸切除が選択される。術前粘膜下層深部浸潤のステージIとステージII-IIIの場合には原則的にリンパ節郭清を伴う外科的腸切除が選択される。当院 では低侵襲な腹腔鏡下手術を積極的に行っている。術後ステージIIIと一部のステージIIの症例については年齢、全身状態が良好であれば、術後補助化学療 法が推奨されている。ステージⅣの症例については外科的切除が可能かどうかの判断を行った上で、全身化学療法、局所療法(放射線療法)などを組み合わせた 集学的治療の適応について検討する。

大きな早期癌の治療

 腫瘍径が2cmを超える大きな大腸癌のなかには深達度が粘膜内あるいは粘膜下層軽度浸潤にとどまる浅い病変が存在する。その多くは側方発育型腫瘍と呼ば れる病変である。従来の内視鏡的粘膜摘除術(EMR)では分割摘除となる場合が多く、20%以上と高率に局所再発を来すことが問題となっていた3)。当院 ではこのような病変に対して当院で開発されたフックナイフを用いて積極的に内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)(図4)を適応し、2009年までに約200 例に施行し良好な成績をおさめている4)。この治療法の利点は90%以上の高い一括摘除率が得られるために局所再発が低率(0-2%)であること、正確な 病理診断が可能なために追加腸切除の適応が高精度に診断できることである。また、欠点として穿孔などの偶発症がの頻度が高いこと(約5%)、治療時間が長 いこと(平均2時間)などがあげられるが、経験とともに改善傾向である。また、穿孔に対してはほとんどの症例で内視鏡的閉鎖による保存的治療が可能であ り、手術が必要となる症例はまれである。

図1.大腸癌の深達度

図1.大腸癌の深達度

色素拡大内視鏡

特殊光内視鏡

大腸がんの病期

大腸がん化学療法指針

佐久総合病院・腫瘍内科部長 宮田佳典

I 大腸癌で化学療法の対象となる進行度と治療法の概容を示す。

 各治療の詳細については大腸癌研究会が定めた「大腸癌治療指針」を参照すること。

II 化学療法の対象となる進行度

A Stage III

(1) 手術 + 化学療法

B Stage IV

(1) 化学療法±手術

III 化学療法

A 補助化学療法

(1) ゼローダ
(2) UFT/LV
(3) sLV5FU2

B Stage IVに対する化学療法は次の順番で投与可能性を検討する

(1) FOLFOX+アバスチン
(2) FOLFOX
(3) FOLFIRI+アバスチン
(4) FOLFIRI
(5) sLV5FU2+アバスチン
(6) sLV5FU2
(7) 二次治療以降はアービタックス±CPT-11も検討する

IV 入院の適応

A ESD
B 化学療法の導入
C 食事摂取が困難
D 外来では対応不可能な症状

参考文献
1) がんの統計〈2008年度版〉がんの統計編集委員会2008.
2) 大腸癌治療ガイドライン(医師用2009年度版)、大腸癌研究会編、金原出版.
3) Hotta K, et al. Local recurrence after endoscopic resection of colorectal tumors. Int J colorectal dis 2009; 24: 225-230.
4) 堀田欣一ほか. 大腸ESDのコツとピットフォール(3)Hookナイフ. 早期大腸癌 2006; 10: 501-505