前立腺生検はがんの有無を診断する検査で、前立腺を超音波で見ながら、針を刺して組織を採取するものです。あらかじめ生検の前にMRI 検査を行っておき、がんを疑う病変がないか、確認しておきます。その病変部分がMRI では見えても生検時の超音波では見えないこともしばしばあり、病変部を頭で思い描いて採取する部位を決定します。この段階は医師の慣れや勘に左右されてしまい、病変部を採取できていない可能性がありました。
今回、それを克服する技術であるMRI 超音波融合前立腺生検(MRI フュージョン生検)システム「ARIETTA65LE」を導入しました。(写真1~3)MRI と超音波の画像を融合させることで、病変部を確実に採取でき、がんの診断率が向上します。例えると、車でバックする際、運転者の技術に頼っていたものが、ハンドルを回す角度によってモニター上に点線が表示され、そのとおり車を動かせば簡単です。ただし、MRI は優れていますが、異常がなさそうに見える部位にもがんが存在することがあるため、がんの検出率を上げるためには、前立腺をまんべんなく、10~12 か所以上採取することも重要です。(写真2)
写真1
MRI 超音波融合前立腺生検
(MRI フュージョン生検)システム
「ARIETTA 65LE」
写真2
画面ではMRI と超音波を融合した画像が表示されます。
写真3
刺すべき穴の番号と、深さが表示されます。
生検はその後の治療にも深く関わってきます。一例を紹介しますと、10~12 か所以上まんべんなく採取した上で、がんの部位が少なく、悪性度が低いなどの条件を満たす患者さんでは、即時の治療を行わず、1 年後にもう一度生検を行って治療方針を再検討する選択肢「無治療経過観察」も可能です。これが6~8 か所の採取ではまんべんなく採取したことにはなりませんので、この選択はできません。このように生検はがんかどうかを判断するのみならず、その後の治療を左右し、とても重要で正確性を求められる検査です。(写真3)
この超音波は「ロボット支援手術」でも活躍します
当院では腎がんに対して「ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術」を行っています。ロボットを用いて腎臓の正常な部分を残し、がんの部分だけを切除する手術です。(写真4) 術中に超音波の装置(プローベ)を直接腎臓にあてて観察し、切除範囲を決定します。手術は皮膚に開けた穴から行うため、この穴を通過する小型化されたプローベが必要です。今回導入した超音波はこの小型プロ―べが接続でき、従来機よりも画質が鮮明で、細かい部分まで観察することができます。(写真5)
写真4
ダヴィンチによるロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術
写真5
腎臓の切除するラインの決定。矢印の右側ががんの部分、左側が正常部分です。
佐久医療センター泌尿器科部長
中山剛
おわりに
泌尿器科は新規の技術が次々に開発されています。今回の「MRI超音波融合前立腺生検」のように医学の進歩は技術開発に携わる技術者(エンジニア)によって支えてられています。自分は医学部に進学する前は工学部に通っていました。モノづくりを自分の仕事とすることはありませんが、かつての仲間たちの気概を胸に、患者さんを治療することが自分の使命だと思っています。