心臓血管外科
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診療内容
特色
循環器内科や他の多職種とハートチームを形成し、患者さんのニーズにあわせた治療を行います。従来の標準的な外科手術はもちろんですが、TAVI(経カテーテル大動脈弁置換術)や小切開による心臓手術、大動脈瘤に対するステントグラフト治療などの低侵襲治療に積極的に取り組んでいます。
また、慈恵医大の國原孝教授の指導のもと、若年患者さんに対する大動脈弁形成術、自己弁温存大動脈基部置換術を行なっています。
スタッフは心臓血管外科医師5名(心臓血管外科専門医3名)と、地方の病院としては多くの医師が所属し治療を行なっています。循環器内科との密接な協力のもとに地域で完結する質の高い治療を提供します。診療内容
■弁膜症
従来の標準的な胸骨正中切開による手術に加えて、大動脈弁疾患では胸骨部分切開による手術、僧帽弁疾患では右小開胸による手術など低侵襲心臓血管外科手術(MICS)に積極的に取り組んでいます。
特に右小開胸手術では、2010年から3D内視鏡を導入し、現在はほぼ完全内視鏡下での手術を行なっています。MICSでの弁膜症手術は胸骨切開を用いないため、上肢の運動制限などを要さず、早期に仕事などに復帰することが可能です。また、多くの施設にて行なっている小開胸手術では、皮膚切開は小さいものの肋骨の間を大きく開くため、肋骨の骨折などにより術後の創部痛は意外と大きいのですが、当院の施行する内視鏡下手術では、皮膚切開創の小ささ(男性6cm程度、女性では乳房の大きさにもよりますが7-9cm程度)に加えて、肋骨の間を開く開胸器を基本的には使用しないため肋骨へのダメージが少なく、術後の創痛はかなり軽減されより早い回復が期待できる特長があります。
さらに、一般的な2Dの内視鏡では細かい縫合操作などには熟練を要しますが、3D内視鏡の使用により、拡大した視野に加えて空間での距離感や位置間隔が容易に判断できるため、手術難易度の高い僧帽弁形成術もほとんどの場合、完全内視鏡下にて施行が可能です。
3D内視鏡を使用した僧帽弁手術風景:スタッフは3D内視鏡用偏光メガネを着用しています
また、弁膜症の患者さんは心房細動を合併されることも多いのですが、当院では積極的に心房細動を治すメイズ手術を追加施行しています。
僧帽弁形成術後の患者さんの創部
高齢者の大動脈弁狭窄に対する経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)も長野県の施設としては初めて2015年6月から開始しました。TAVIは通常の開胸による大動脈弁置換術が困難な患者さんへの治療ですが、弁や大動脈の状態などにより可能かどうかの判断をハートチームで行なっています。現時点では、術前のエコー検査、CT検査などを当院で行う必要があります。
患者さんのご紹介は当院の地域医療連携室へお願いいたします。遠方の患者さんは事前の受診は必要ありませんので、検査の日程を地域医療連携室からご連絡いたします。
■冠動脈バイパス手術
当院では、基本的に人工心肺を使用しないオフポンプ冠動脈バイパス術を基本術式として、おおむね8割くらいの患者さんにこの手術方法で手術を行なっています。しかし、心臓の力が弱く体外循環が必要な患者さんや、若い方で確実に多くの冠動脈に動脈グラフトを使用して手術を行いたい方には、体外循環を使用した手術も施行しています。
一方、冠動脈バイパス術でも、左小開胸で施行する低侵襲冠動脈バイパス術(MICS CABG)を2010年から行なっています。当院の特徴としては、バイパスに使用する内胸動脈採取を弁膜症手術に使用しているのと同じ3D内視鏡を使用して行なっています。この方法では内胸動脈の採取に肋骨の間を大きく開く必要がなく、ほとんどの患者さんに術後の疼痛の訴えがみられません。また、拡大したテレビモニターを見ながら通常の手術と同様の方法で内胸動脈の剥離・採取が可能であり、大変よい方法であると考えています。
一方、肋骨の間を極力開かずに手術を施行しているため、バイパスができる血管は限られており、冠動脈左前下行枝や、その枝である対角枝にバイパスが可能です。このため、当院で施行するこの方法は全体のバイパス手術の1割から2割程度ですが、循環器内科と協同で、左前下行枝や対角枝以外にある病変がカテーテル治療で良好な成績が期待できる場合には、冠動脈バイパス術の後、1週間以内にカテーテル治療を行うハイブリッド治療も行なっています。MICS CABGは胸骨を切断しないため、早期から上肢の運動制限などを要さず、特に若い方で早く社会復帰されたい方には大変おすすめの手術方法です。
MICS CABG後の患者さんの創部
■成人先天性心疾患
心房中隔欠損症、一部の心室中隔欠損症では弁膜症と同様、右小開胸での内視鏡下手術が可能です。1週間程度の術後入院で、早期に社会復帰が可能です。また、特に女性では乳房下の線での切開が可能ですので、美容的にも大変すぐれた方法です。
■重症心不全に対する外科治療
拡張型心筋症や虚血性心筋症など、重度の慢性心不全の患者さんに対して弁形成術や左室形成術などの通常での外科手術方法に以前から取り組んでいます。さらに、末期重症心不全の患者さんに対しては補助人工心臓治療を積極的に行なっています。
将来心臓移植が必要な患者さんには、心臓移植実施施設である東京大学と連携し、植込み型補助人工心臓治療を行なっています。多くの患者さんは長期間の内科的治療後にこの治療が必要になりますが、当院では富山大学(前東京大学重症心不全治療開発講座)の絹川教授の重症心不全外来を3カ月に1回程度開設しており、同日に実施している絹川教授とのカンファレンスで患者さんの治療方針を決定しています。また、手術では東京大学心臓血管外科の小野稔教授の指導をいただき、安全な手術の施行に取り組んでいます。
一方、急性心筋梗塞や心筋炎などの急性の重度心不全に対しては、体外式の補助人工心臓治療を行なっています。補助人工心臓治療は末期になってからの施行は成績が悪く、急性、慢性共になるべく早い時期にご相談いただきたいと思います。
■大血管の病気の治療
大血管の病気の治療は当院独自の大きな特徴はありませんが、開胸・開腹手術はもちろん、血管内治療であるステントグラフト治療も多くの経験があり、佐久医療センター開設後はハイブリッド手術室で、単なるステントグラフト治療だけでなく、人工血管によるバイパスの併用や、開胸・開腹手術との併用手術なども行なっています。治療の選択肢はいくつもある場合があり、外来などで患者さんに合った治療法をご相談いたします。
■末梢血管の病気に対する治療
主に白鳥、豊田が行なっています。また、現在は浅間総合病院外科の箕輪隆先生とともにカンファレンスや治療を行なっており、当院だけでなく浅間総合病院での手術をおすすめする場合があります。
■下肢静脈瘤の治療
本院で下肢静脈瘤外来を開設しており、術後痛みの少ない高周波による血管内治療を施行しています。